死ぬ場所として多いのは「病院」だが、最近では自宅で死にたいという希望を持つ人も多い。では、患者が自宅に帰った後はどんな生活が待っているのか。
岐阜県にある小笠原内科の小笠原文雄院長は現在、在宅医療で約150人の患者を受け持っている。24時間体制で在宅医療を行う同院は、併設の「小笠原訪問看護ステーション・介護支援サービス」と連携し、寝たきりに近く通院が困難な患者や、老衰や末期がんなどで自宅での看取りを希望する患者に往診や訪問看護を行う。
小笠原内科のスタッフは小笠原さん含めて医師6名、看護師2名、臨床検査技師1名、管理栄養士1名、秘書&事務3名の計13名。小笠原訪問看護ステーション・介護支援サービスの訪問看護師14名、言語聴覚士1名、ケアマネジャー5名(兼任3名)と連携して在宅医療を行う。
特徴的なのは、「トータルヘルスプランナー」(以下、THP)と呼ばれる独自のスタッフがいることだ。
「医療、看護、介護福祉、保健などの深い知識を持ち、在宅医療にかかわるスタッフを統括する司令塔です。患者の様態を見抜いて、医師には薬の処方、ケアマネジャーには介護道具の準備などを指示し、家族のケアまで担当します。常に先手を打つことが大切な在宅医療において、先の読めるTHPは欠かせない存在です」(小笠原さん)
多職種連携・協働・協調+介入のキーパーソンであるTHPは国家資格ではなく、小笠原さんの母校・名古屋大学や、日本在宅ホスピス協会で育成・認定している。小笠原内科では、訪問看護師がTHPとして活躍する。
通常の往診は担当医、ケアマネジャー、看護師の3者で行うが、症状によっては3~4名の医師が同行する。
末期のケースは基本的に訪問看護師が毎日1回、患者の元を訪れ、医師は時に往診もするが緊急の必要がなければ、iPadを使った遠隔診療も行う。お互いの表情が画面に掲示され、患者の具合がよくわかるという。
とはいえ、患者が認知症だったり、重度の介護が必要な場合、下の世話も含めた「24時間介護」が求められることがある。介護地獄から介護殺人に至るケースがたびたび報じられるように、日本では認知症患者が在宅医療を希望しても、それが家族の重い負担となり、悲劇を招くことが多々ある。
しかし、小笠原さんは「認知症患者でも在宅の看取りは充分に可能」と断言する。
「医師、看護師、ヘルパーなどで医療・看護・介護の3点セットが支えられれば認知症でも在宅で看取れます。徘徊の恐れはありますが、『ある程度のリスクは仕方ない』という考えを家族が共有すれば、案外無事に過ごせるものです」
激しい疼痛を伴う末期がんでは在宅医療に躊躇する患者や家族もいるが、小笠原内科では、そうした患者に「夜間セデーション」を行う。
「精神安定剤を使い、夜間はぐっすり眠ってもらうことで疼痛を感じない方法で、朝が来るころには薬の力が切れて、自然と目を覚まします。夜間セデーションを受けた患者は、『夜間の痛みから解放されてこんなに幸せなことはない』と口をそろえて喜びます」(小笠原さん)
※女性セブン2016年10月6日号