ライフ

般若心経 「五蘊皆空」という言葉の解釈

医師・僧侶の田中雅博氏

 2014年10月に最も進んだステージのすい臓がんが発見され、余命数か月であることを自覚している医師・僧侶の田中雅博氏による『週刊ポスト』での連載 「いのちの苦しみが消える古典のことば」から、『般若心経』の「五蘊皆空(ごうんかいくう)」という言葉の解釈を紹介する。

 * * *
 本連載の第3回に書いた仏陀の言葉「諸法は我でない」を、仏陀の死後千年を経て著された般若心経の言葉として再び取り上げます。般若心経は、非常に多くの人々によって千年以上も読み続けられている言葉なので、その内容を重ねて紹介したいのです。

 第3回では、ギルバート・ライルの「範疇誤謬(はんちゅうごびゅう)」を参照しました。オックスフォード大学を初めて訪問した外国人が、各学部や図書館や運動場や事務棟などを案内された後で、「学生が勉強する所や学籍係が仕事をする場所は解りましたが、大学はどこに在ったのですか?」と質問したという話です。「私の身体」や「私の思い」等は「私という主体」と範疇が異なるのです。それは、デカルトの「我思う、故に我あり」が論理学的に間違っていることの証明でした。

 オックスフォード大学でギルバート・ライルの先生であったウィトゲンシュタインは著書『論理哲学論考』で「私の身体は有る。しかし私という主体は私の世界に属さない、それは世界の限界である」と言っています。

 般若心経には「五蘊」という言葉が出てきます。色(私の身体)・受(私の感覚)・想(私の表象)・行(私の意思)・識(私の認識)という5つの自己執着の要素の集合のことで、自己執着が空っぽになった状態が般若心経の「五蘊皆空」です。

 この五蘊皆空(自己執着が無くなった状態)が般若(知恵)の波羅蜜多(完成)です。前回紹介したように、知恵の完成は「筏の譬喩(いかだのひゆ)」を使って説かれました。旅人が、仏教という筏に乗って、苦しみの此岸から涅槃(安楽)の彼岸に渡った。彼岸に渡った後、旅を続けるには筏(仏教)を捨てる。自己執着を捨てることを説く仏教は、仏教自身に執着しないのです。

関連キーワード

関連記事

トピックス

天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン