安倍晋三政権は、経済政策に自信があるらしい。8月2日に、約28兆1000億円の経済対策を閣議決定した。経営コンサルタントの大前研一氏が、その対策について論評する。
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安倍政権は参院選の圧勝を受けて、事業規模28兆1000億円もの経済対策を決定した。これは正気の沙汰ではない。政府はこの対策がGDP(国内総生産)成長率を1.3%押し上げると試算しているが、文字通り「捕らぬ狸の皮算用」に終わるだろう。
なぜなら、日本の失業率は現在3.0%(2016年7月)で、ほぼ完全雇用の状態だからである。実際、建設をはじめ飲食、小売、ホテル・旅館、介護、保育など多くの業界が深刻な人手不足に見舞われている。
そんな時に経済対策と称してカネをバラ撒くような国は、私が知る限り、歴史上初めてだ。すべての経済理論に反している。ケインズ以来、カネをバラ撒くのは失業率が高くて雇用を増やさなければならない時と決まっているのだ。
日本経済が成長していない理由は、設備投資と個人消費が上向かないことである。
設備投資が増えないのは、今後ますます少子化・高齢化が進んで人口が減少する日本に将来性がないからだ。また、個人消費が伸びないのは、お金がないからではなく、現在の日本は人々の欲望がなくなっている上、将来が不安で、それに備えているからだ。そうした不安を取り除き、投資や消費に前向きになれる安心感を与える施策こそが、いま必要とされる経済政策なのである。
ところが安倍政権は、一般会計の歳出総額が96兆7218億円という過去最大の2016年度予算を組み、さらに28兆円の経済対策を決めた。それらは、政府が喧伝する内容とは正反対に、乗数効果は極めて限定的で小さい。しかもその結果、将来世代から借りてくる国の借金がいっそう増えるので、国民はますます不安になって身構えていく。全くの逆効果なのだ。
※週刊ポスト2016年9月30日号