社会学者・橋爪大三郎氏は、かねてよりフリーメイソンに関心を抱いてきた。氏いわく「アメリカ独立の経緯は彼ら抜きに語れず、日本の占領政策にも深く絡んでいるから」。橋爪氏が同団体の謎を読み解く。
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彼らのルーツは石工組合、いわばゼネコンの同業者組合です。でも、石工(いしく)という性格もあって、通常の同業者組合を越える存在となっていった。
同業者組合はふつう、都市を基盤とし、自分たちの利益を守り、おのずと排他的になります。既得権を守るため、権力と結ぶことが多い。ハンザ同盟(*注)のように、都市をまたがる広域の同盟に発展する場合もあります。でも同業者組合にとどまっている限り、社会を変革するパワーは持てません。
【*注13世紀~16世紀に機能したドイツ商業圏。ハンザは「商人仲間」を意味する。商人組合が次第に都市間の同盟に発展し、最終的に共同利益の保全のための軍事同盟的な色彩も帯びた】
では、フリーメイソンはなぜ、そのパワーを持つことができたのか。
まず、権力と結びつかなかった。石工組合は教会建築も造るが、要塞なども造る。軍事施設です。軍事機密に触れるので、施工主はよそで漏らすなと厳命する。そのいっぽうで、よその機密を探ろうともする。それを拒むところに「秘密主義」の原型があります。複数の施工主(あちこちの国王やいろいろな宗派の教会)と仕事をするので、そのいずれとも距離を置かなければならない。巨額の金銭が動くため、支払いを巡るトラブルも起きる。
次に、国際組織なのはなぜか。高度な技術者が不足していて、石工はヨーロッパ中を移動した。プロテスタントの信者になった石工たちは、国際組織であるカトリック教会に対抗できる、国際組織の後ろ楯を必要とした。プロテスタントの宗派は細かく分かれて対立し、地域にも偏りがあるので、頼りにならない。
そこでこの際、同業者組合そのものを、カトリック教会に対抗できる、国際的な秘密結社に強化して、自分たちを守ろうとしたのです。
フリーメイソンはハイテクの理工系集団で、最先端の技術知識を集めた、当時の大学のようなもの。啓蒙思想系の文化人や業界人も会員に加わり、情報交換の場、新思想の揺り籠として有効に機能しました。
※SAPIO2016年10月号