「がん」「脳卒中」「心疾患」などによる死の中には、苦しみや痛みを伴うものもあれば、比較的「ポックリ」と死ねるものも存在する。一方で、様々な「死に方」の中で、どれが一番辛いかを見極めるのは難しい。
脳神経外科が専門の眞鍋雄太・横浜新都市脳神経外科病院内科認知症診断センター部長は重度のアルツハイマー型認知症患者が直面する深刻な現実を解説する。
「ある老人ホームで私が主治医を務めた元大学教授が重度のアルツハイマー型認知症でした。英字新聞を読むのが習慣の方だったのですが、理解できなくて癇癪を起こすようになった。
失禁すると便の付いた下着を部屋の箪笥に隠す。症状が進行してかつての聡明さは消えても、プライドは残っているのでとても辛そうでした。最期は体力が衰えて、身動きもとれぬまま誤嚥性肺炎で亡くなりました」
患者本人にとっても、看護する家族にとっても負担は大きい。
具体的な疾患ではなく、医療行為が引き起こす「最悪な死に方」を挙げる医師もいた。国際全人医療研究所理事長の永田勝太郎医師(心療内科)が挙げたスパゲティ症候群だ。
「事故や脳梗塞などで脳機能が損なわれて朦朧とした患者を管だらけにして栄養を送り込めば、生きられても人間らしさは奪われる。自分の意思と関係なく医療を行なわれ、ある日突然管を外され死に至る。最悪だと考えます」
帯津三敬病院名誉院長の帯津良一医師(外科)は、抗がん剤の副作用に苦しめられるのが最も不幸だと話す。
「忘れられない患者に50代の高校教師がいました。溌剌として生徒の信頼も厚い方でしたが、抗がん剤の副作用で髪は抜け落ち、皮膚はカサカサ、食欲も落ちて生気を失っていました。
見舞いに来た生徒たちも言葉を失くすほど痩せ細った状態を経て多臓器不全で亡くなられました。抗がん剤も外科手術もその処置によってもう一度社会に戻してあげられるなら必要ですが、ただ単に命を長らえるだけならかえって残酷です」
※週刊ポスト2016年9月30日号