米国の株式市場が連日のように過去最高値を更新したが、その背景には何があるのか。海外金融機関の動向について詳しいパルナッソス・インベストメント・ストラテジーズ代表取締役の宮島秀直氏が解説する。
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英国のEU(欧州連合)の離脱(ブレグジット)による、マーケットの動揺は終息したかのように見える。しかし、英国の国民投票によってブレグジットが決まった直後から、欧米投資家の行動には顕著な変化が見られる。
まず、欧州の金融市場からの資金逃避が始まっている。おもな逃避先は米国だ。7月の前半から後半にかけて、米国の代表的な株価指数であるNYダウやS&P500が、連日のように過去最高値を更新したが、その原動力となったのは欧州投資家が欧州市場から引き揚げた資金とみられる。また、一部の資金は日本株にも流入した模様。
ブレグジットというイベントによって、為替、債券、株式市場は大荒れの展開となったものの、マーケットは比較的早く小康状態に戻った。その背景には、英国とEUの離脱に向けた具体的な交渉が、2016年内には行なわれず2017年以降に持ち越されることになり、その内容次第では経済的混乱は限定的になるという楽観的な見通しが、マスメディアや市場関係者から頻繁に伝えられたことがある。
だが、そうしたマスメディアが伝える報道とは、渦中にいる欧州投資家の見方は大きく異なる。ブレグジットに端を発したEUの混乱は、2017年にはいちだんと大きくなると想定している。その根拠は、EU加盟国の政治状況が相次ぐ総選挙を経て悪化する可能性が高いからだ。
ここ数年、「極右」と呼ばれる過激な主張をする政党に代表される「右派ポピュリスト(大衆迎合)政党」が、EU各国で勢力を伸ばしつつある。移民政策などEUの基本政策に反対を表明する政治勢力だ。著しいのは、ハンガリー、オーストリア、フランス、ポーランド、ドイツといった国々で、すでにハンガリーでは、ポピュリスト政党の議席数は全議席数の3分の2程度、オーストリア、ポーランドでは3分の1程度に達している。
そして、2017年をみると、3月にオランダ総選挙、6月にフランス総選挙、9月にドイツ総選挙が予定されており、いずれも次のようなポピュリスト政党の台頭が予測されている。オランダでは『PVV』(自由党)が第一党になる勢いとされ、フランスでは『FN』(国民戦線)、ドイツでは『AfD』(ドイツのための選択肢)といった政党が、野党第一党になる可能性が指摘されている。
すでに、オランダとフランスの世論調査では、EU離脱を問う国民投票の実施に、国民の5割以上が賛成していることが判明しており、ポピュリスト政党の台頭によって、総選挙後に実施される可能性が浮上している。実施されるとなれば、EUの政治状況はますます混迷の度を深めるであろう。こうした状況を受けて、一部の欧州投資家は資金を米国や日本の市場にいち早く避難させているのである。
※マネーポスト2016年秋号