近著『「0から1」の発想術』で、全く新しいものを生み出す発想力の重要性を説いている大前研一氏。近年、イノベーションを起こしているのは新興企業が多いが、大前氏は従来型の企業にいるビジネスマンこそ「イントラプレナー」になるべきだと指摘する。
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日本企業では、多くのビジネスマンが会社の「階層社会」のピラミッド組織の中で「ミドルマネジメント(中間管理職)」という立場に置かれている。だが、もはや階層社会もミドルマネジメントも無用の長物だ。
かつて日本経済全体が右肩上がりで成長していた時代は、同じプラントや同じプロジェクトの規模を拡大していけばよかった。したがって、階層が上の年配者ほど経験が豊富になり、階層が下の若い人たちを指導する力があった。
しかし、今や企業を取り巻く競争環境や顧客ニーズは激変した。新しい技術や新しいコンセプトが続々と登場し、これまでの「成功の方程式」が全く通用しなくなっている。
しかも、ライバルは見えない状況だ。つまり、アマゾン、グーグル、フェイスブック、あるいはまだ見ぬ新興ベンチャーなど、従来のように「同業他社」ではない競争相手と戦わなければ、あらゆる業種が突然死する時代なのである。
そういう時代には、会社の方針や事業計画に基づいて仕事をするだけのミドルマネジメントは役に立たない。今や真っ当な会社であれば、トップマネジメントの意思決定はメール一発ですべてのヒラ社員に届く。ヒラ社員が自分の意見をトップマネジメントに直接伝えることもできる。
したがって、トップマネジメントとヒラ社員の間の単なるメッセンジャー(伝令)役でしかないミドルマネジメントは全く不要だし、ましてや階層社会の中で同期より1年早く出世したなどということは何の意味もない。トップマネジメントだろうが、ミドルマネジメントだろうが、新入社員だろうが、役割はみな同じであり、「自分が会社を変える」くらいのことをしなかったら、その会社と一緒に沈んでいくだけである。つまり、階層社会というのは、続々と新しい技術、新しい事業機会、新しい競争相手が出てきている今の時代には有害・無益なコンセプトなのだ。
会社の5年後、10年後を見通して新たな基本戦略や自分たちの事業をつぶす可能性のある脅威への対抗策を考え出せる人間でなければ、会社の中に安穏と留まることができない時代になったわけで、その能力には年齢や階層はもとより性別も国籍も民族も宗教も関係ない。
言い換えれば、今やビジネスマンは誰もが会社の中で新しい事業を立ち上げる「イントラプレナー(社内起業家)」にならねばならないのだ。
※SAPIO2016年10月号