「『茅(ちがや)』の茂る場所」が語源だといわれている千葉。海に囲まれ、自然が生い茂るこの豊かな地に住む県民たちの心は、「東京ドイツ村」(袖ヶ浦市)、「新東京サーキット」(市原市)などの名称にあらわれるように、隣接する首都・東京へのコンプレックスに支配されていた。千葉が生んだロックアーティストで、1980年代半ばから千葉テレビの放送枠を自費で買い取って出演していた音楽番組『HELLO JAGUAR』で人気沸騰したJAGUAR氏(通称・ジャガーさん)も「これはよくないですねェ」と話す。
「確かに、東京ドイツ村なんて、房総半島の山の中ですからね。きっとドイツ村にも事情があったんでしょうけど、『東京』を名乗るのはさすがに厳しいですよね(苦笑)。最初から『千葉ドイツ村』で良かったと思うよ。千葉県民はもっと自信を持てばいい。
千葉はいいところですよ。空気は綺麗だし、ジャガーが住んでいる市川市から東京まで電車なら20分で行けますから」
結局、一番のアピールポイントは「東京から近いこと」ということになってしまったが、それはご愛嬌。「千葉県民よ、自信を持て」というロックなメッセージは伝わっただろうか。
ジャガーさんが暮らす市川市や浦安市など千葉県西部の住人には「千葉都民」を自称している人たちが少なくない。東京まで直通の東西線や総武線の沿線住民に多く、千葉の人口の4分の1を占めるともいわれる。
千葉県西部は、ジャガーさんのいうように電車で20~30分で都心に着く。通勤圏として利便性が高く、そのアイデンティティーは千葉というより東京にある。
「『東京に近いこと』が“千葉都民”のプライドらしい。総武線沿線に住んでいる千葉県民にどこに住んでいるのかと聞くと『錦糸町のちょっと先』と東京の地名で答えるのがイラッとする」(埼玉県草加市・30代男性)
“千葉都民”が説明する。
「漁師町とか農村部の内房、外房は同じ千葉県とはいえ、別世界だと思っています。東京のほうがよっぽど身近ですよ」(市川市・30代男性)
県民性に詳しいコンサルタントの矢野新一氏は“千葉都民”の心情をこう分析する。
「千葉県西部には、本当は都内にマイホームを持ちたかったが諦めて移り住んできた人が多い。そのコンプレックスの裏返しが『千葉都民』たるゆえんです。代々同じ場所に住み続ける外房などの県民からすれば鼻につくはず」
※週刊ポスト2016年10月7日号