「辰五郎の最後の大博打にしろ、時代物ではひとつ間違えば死に直結し、その分感情の振幅やドラマも大きくなる。とにかく僕は日本人がワクワク、ドキドキして、もっと遊びたくなる小説が書きたかったんです。
最近はギャンブルも規制すればするほど違法なものが出てきたりして、むしろ江戸の方が健全なくらい。僕は自分が寅さんのファンということもあって、別にあくせく働かなくても楽しく生きられればいいという発想が、これからの日本を支える気がしてならないし、ユーチューバーでも何でもいいから面白いことを見つけて、しかも人に喜んでもらえたら、お金は回り回ってくる。それがエンジニアから物語の作り手になった僕の実感でもあります」
江戸であれ、現代であれ、大事なのは人生を楽しむこと。その極意を三吉や沙夜に教えた辰五郎もまた人と関わる喜びに目覚め、〈迷惑を かけた量より 恩返し、てな〉と優しさを隠すように一句詠む一途で憎めない彼と家族の旅に今後どんな展開が待つのか。翁丸がただの駄犬か否かも含め、本誌で続行中の『こんぴら埋蔵金』の行方も楽しみである。
【プレフィール】どばし・あきひろ/1969年大阪府豊中市生まれ。関西大学工学部卒。日立製作所勤務を経て、2000年Web制作会社を設立。その傍ら2011年「超高速!参勤交代」で第37回城戸賞を同賞初のオール満点で受賞し、2013年同名小説で作家デビュー。2014年公開の映画も日本アカデミー賞最優秀脚本賞やブルーリボン賞作品賞を受賞し、公開中の続編『超高速!参勤交代 リターンズ』の脚本も担当。著書は他に『幕末まらそん侍』『引っ越し大名三千里』等。171cm、90kg、B型。
■構成/橋本紀子 ■撮影/国府田利光
※週刊ポスト2016年10月7日号