ヨーロッパではテロが頻発しているが、これは通貨ユーロにどんな影響を与えるのか? 30年の経験を持つ為替のスペシャリストで、バーニャマーケットフォーカスト代表の水上紀行氏が解説する。
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ユーロ圏では、昨年の11月13日にパリで同時多発テロの発生以降、今年3月22日のベルギーのブリュッセルでの爆破テロ、7月14日のフランスの地中海沿岸にあるニースでのトラック・テロ、そして7月26日にはフランス北部で教会襲撃事件が起き、老神父が殺害されました。いずれも、IS(イスラム国)の犯行とされています。これらのきっかけとなったのが、昨年1月7日に発生したシャルリー・エブド襲撃事件です。
「シャルリー・エブド」は、パリにある風刺週刊誌を発行している会社ですが、イスラム過激派を挑発するような風刺画の掲載にあたっては、再三、IS側から警告が発せられていましたが、同社は報道の自由を主張して引かず、とうとう本社への襲撃事件に発展しました。
これが特にフランスで、テロ事件が多発している原因だと言えます。テロは、当初パリのような大都市に限られていましたが、それに止まらず、地方にも及ぶようになり、どこにいても危険の伴う状況になりました。
ベルギーの爆破テロやドイツのミュンヘンでの銃乱射事件など、ISとは直接関係はなかった他の国であっても、油断はできない状況にあると言えます。
◆長期の問題になり得る懸念
このようにフランスに限らずユーロ圏は、ISとの闘いを強いられていますが、中でも一番問題をこじらせていることは、宗教が絡んでいることです。
イスラム国は、イスラム教が社会の中心にあります。宗教の怖さを端的に言えることは、(なにに対しても)妥協しない、終わらないということです。つまり経済合理性では、説明ができない世界からユーロ圏は攻撃を受けているということです。それが、今ユーロ圏で始まっていることに、深い懸念を覚えます。
したがって、この攻撃は、場合によっては宗教戦争のように何十年という単位で続く可能性すらあります。それによる、ユーロ圏経済に与えるダメージは、ボディーブローのように効いてくるものと思われます。
EU(欧州連合)の理念としてきた「域内の人や物の自由な移動」も、国境検問がテロ対策から既に厳しくなっていることで、事実、簡単ではなくなっています。域外からの観光客も激減するものと思われます。
世界一の観光立国フランスにとっては、大きなダメージになることでしょう。そして、観光客のみならず、地元民も、おちおち外出もできなくなることは言うまでもないことだと思います。
◆ユーロ大幅下落の要因となるか
こうしたテロは、今後も終わりが見えないままに延々と続くことが予想され、ユーロ圏の体力を大いに消耗させ、さらには域外からの投資を抑えることになり、引いては「ユーロが大幅に下落する主たる原因」になる可能性があります。上記でも申し上げましたように、ISが関与したとされるユーロ圏でのテロは、ここ1年でパリ、ブリュッセル、ニースなどがありました。
そのたびに多くの犠牲者を出しましたが、ISとあたかも宗教戦争に陥っているとすれば、テロはいつになっても終わらないことになると思います。それにより、社会全体の恐怖感は、いつになっても拭いさることはできなくなるでしょう。社会活動は停滞し、景気の低迷から、現在膠着状態にあるユーロ/ドルは、下落を再開するものと思われます。
つまり、他にもユーロ安要因はあるものの、エンドレスに景気を下ぶれさせるのは、なによりも、このテロという一種の宗教問題だと思います。既に申し上げましたように、宗教の怖さは、ダメとなると、妥協がなくなり、また終わりがないことだと思われ、これにとりつかれたユーロ圏は、長期低迷を余儀なくされるでしょう。
※マネーポスト2016年秋号