日刊紙約20万部、日曜版約100万部の政党機関紙「しんぶん赤旗」は、数々のスクープを報じてきたことでも知られているが、その強さは調査力と取材力と諜報網にある。地域や業界をまたいで張り巡らされた、党員30万人のネットワークが赤旗諜報網の要である。それらの情報を基に調査に乗り出す赤旗記者は、国会議員団秘書や地方議員らと協働するケースがよくある。
田中角栄金脈問題追及の嚆矢とされる「信濃川河川敷買い占め」のスクープがそうだ(日曜版66年10月23日号)。元編集局長・関口孝夫氏の回顧録によると、水害の取材でたまたま立ち寄った共産党中越地区委員会で地元・長岡市の市議から「河川敷買い占めの裏に田中がいる」という情報を得たのが、取材の端緒となったという(『ザ・取材』)。
赤旗記者が国会議員秘書に“早変わり”するケースさえある。
「ロッキード事件に関する取材では何度も訪米して調査に当たりました。海外取材の時だけ、赤旗記者から外れて共産党国会議員に秘書登録したことがあります。国会議員秘書の肩書があると取材がスムーズに進むからです」(赤旗OB記者)
中でも一般の新聞にはない強みが、「記事がすぐ国会質問されること」である。共産党の国会議員は赤旗の記事をもとに与党議員の追及をするケースがよくある。それにより他紙も後追いせざるを得なくなり、問題が広がっていくのだ。
一方で、ある赤旗記者からはこんな本音も聞かれた。
「何か月もかけ、協力者を粘り強く説得してスクープをとっても、党本部から『これは委員長の国会質問で初めて出たかたちにするから』と要請されることもある。“事件屋”としては忸怩たるものがありますよ」
記者がどれだけ独自ネタを集めても、赤旗は政党機関紙の宿命からは逃れることができない。ジャーナリズムよりも、党の宣伝こそが赤旗の本分だからだ。
閣僚をはじめとする与党政治家、大企業、敵対する団体・個人に対しては容赦なく切り込む一方、もちろん党の意向に沿わない記事を書くことは許されない。記者であってもジャーナリズムを純粋に追求することができない不自由さもまた、赤旗ならではと言える。
※SAPIO2016年10月号