もし60歳を過ぎて愛するペットと死に別れてしまったら、どうするか? 「新しいペットを飼いたい」という思いがあっても、老い先短い人生では不安は尽きない。60歳の今から、「ペットを飼う」のはありなのか、なしなのか──。
「最近、心臓の調子が思わしくない。将来のことを考えると、どうしても踏み切れないんです」
こうつぶやくのは都内在住の66歳の男性である。彼が今思い悩んでいるのは、新たに犬を飼い始めるか否かだ。
「51歳で妻に先立たれ、寂しさを紛らわせるためにゴールデン・レトリバーを飼い始めました。ひとり暮らしの、本当に大きな支えになってくれました。
でも、その愛犬も昨年の冬に天国に逝ってしまって……。ひとりでいると寂しくて仕方がないので、できればまた同じレトリバーを飼いたいのですが、今後、散歩を続けられる自信がない」
ペットを飼う人にとって、一緒に暮らす犬や猫は家族同然、人によっては「家族以上の存在」だ。特に単身で暮らす高齢者にとって、その存在の大きさは計り知れない。
内閣府の調査(2010年)によれば、60~69歳の36.4%、70歳以上の24.1%が犬や猫などなんらかのペットを飼っているという。その背景には単身高齢者の増加がある。単身高齢者の割合は年々増え続け、1980年の10.7%から2010年には24.2%に達した。NPO法人ペットライフネット理事長の吉本由美子氏は、高齢者がペットを飼うことは利点が多いという。
「何より生活に張りが出ます。引きこもりがちでふさぎこんでいた人が、ペットを飼い始めたらすっかり快活になったという例は多い。犬の散歩で足腰が強くなったという人もいるんです」
一般社団法人ペットフード協会の調査では、犬を連れて散歩すると、男性で0.44歳、女性では2.79歳、健康寿命が延びるとの結果が出たという。
動物保護愛好家の成田司氏は、ペットから離れた人が、再び飼い始めたことで生活が改善したケースがあったと話す。
「飼っていた犬を亡くしてから認知症が悪化してしまった60代後半の女性がいました。その方が、再び犬を飼い始めたところ、認知症が改善し、普通の生活が送れるようになった」
※週刊ポスト2016年10月7日号