400勝投手の金田正一氏(83)のお宝は、「リンゴの唄」の作詞者として知られる詩人・サトウハチロー氏から贈られた詩だった。数多くのトロフィーや盾、思い出の品よりも、この詩をお宝と呼ぶ理由について、金田氏が語った。
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1969年、巨人がリーグ5連覇を決めた翌日、通算400勝を達成したワシはユニフォームを脱ぐことになった。その直後に自宅に贈られてきた詩がワシの宝物だ。
贈り主は詩人のサトウハチローさん。大きな和紙に毛筆で書かれたその詩には、難しい言葉は1つも使われていない。ただその内容は、ここまでワシをしっかり見ていてくれた人がいたかと嬉しくなるものだった。読めば読むほど金田正一の真の姿が見えてくるのだ。
サトウさんと面識はほとんどない。だからこそこの詩には価値がある。ワシに一切媚びる必要のない人の客観的な意見だからな。倉庫には沢村賞など数多くのトロフィーや盾があるが、そのどれよりもワシを評価してくれているものだと思う。
サトウさんは中日の熱烈なファンだったと聞く。ワシは名古屋で生まれながら、中日ではなく東京のチームに入団した。いわば中日ファンにとって裏切り者のはずだが、ここまで気にかけてくれていたかと思うと、頭が下がるよ。
撮影■山崎力夫
※週刊ポスト2016年10月7日号