在宅死を望む高齢者は多いものの、家族は看取りの経験も知識も乏しく、不安を抱えている。そんな家族のために、看取りの手順などをまとめた小冊子を用意する医療機関や介護施設が増えている。実際の資料と在宅専門医や看取り実績が豊富な老人ホームの協力をもとに作成した「お別れパンフレット」から「亡くなった時とその後の対処法」を紹介しよう。
在宅で亡くなった時、混乱して一刻も早く、医師に連絡を、となりがちだが、家族で死を看取ると考えたなら慌てる必要はない。
──医師への連絡を急ぐ必要はありません。優先すべきは家族とのお別れです
この臨終の時にも、冷静さが求められる。呼吸が止まったかどうかは鼻に手を当てて、鼓動は心臓に手を当てて確認。そして首の動脈に手を添えて脈を測る。最後に眼を開いて瞳孔が大きく広がったかどうかを見る。
死亡を確認しても、すぐに医師に連絡する必要はない。亡くなった時間を控えておけば、ゆっくりお別れを済ませてからでも遅くない。医師が到着するまでにやるべきことは、故人の目が開いていれば瞼を閉じさせ、口が開いていれば、枕を高くしタオルを丸めて顎の下に入れておくと自然に閉じる。
思い出話が尽きなければ、医師を呼んだ後にまた花を咲かせればいい。駆け付けた医師は、心拍停止・呼吸停止・瞳孔散大の「死の3兆候」を確認して死亡診断書を書くだけだ。長くても30分程度の滞在である。
◆死亡後・エンゼルケアは遺族が施す
故人に家族ができることはまだある。病院死の場合に看護師などが行なうエンゼルケア(死後処置)は家族でもできる。このケアの有無で遺体の状態に大きな差が出るので、きれいな姿で見送るために詳しく知っておきたい。
──手足を真っ直ぐにしてあげてください
緩和ケアの専門医である長尾クリニック院長の長尾和宏氏が解説する。
「医師や看護師以外はご遺体に触れてはいけないと思っている家族が多いですが、そんなことはありません。家族の手で姿勢を整えたり、エンゼルメイク(死に化粧)を施すことで、“自宅で最期まで介護できた”というやり切った感が得られ、後々の悲観が軽減することもあります」
死後2~3時間後に始まる死後硬直の前に、遺体の手足を真っすぐにする。関節が曲がったまま硬直すると、その後の着替えや納棺時に苦労することになる。
──下腹を押して溜まっている便や尿を出してあげましょう
排泄しないと、着替えさせた後に突然、体内に残っていた便や尿が漏れ出すこともある。その後は体を丁寧に拭いてあげ、用意した服に着替えさせる。
──男性でもお化粧をして、顔色をよくしてあげましょう
死亡後は顔が白くなっていく。女性には普段通りのメイクを施し、男性でもヒゲを剃った上で頬紅やファンデーション、さらに口紅を薄く塗ると、生前の顔に近づけられる。
※週刊ポスト2016年10月7日号