加入対象がほぼすべての現役世代に拡大する改正法が成立したことで、個人型確定拠出年金(個人型DC)に注目が集まっている。個人型DCは老後資金を目的に自分の専用口座で毎月投資信託などを積み立てる制度で、積み立てた全額が所得控除の対象になる点が大きなメリットだ。所得税や住民税を軽減する効果が高いため、老後に備えながら現役時代からも恩恵を受けることができる。
しかも、運用益も事実上非課税で、受け取り時も退職所得控除や公的年金等控除の対象となる。結論としては、老後資金の形成手段としては圧倒的に有利で、使わなければ損といっても過言ではない金融商品だ。これまでは自営業者や企業年金を持たない会社員など、老後の年金が手薄な層の「特権」だったが、2017年からはほぼすべての現役世代に門戸が広がる。
個人型DCは利用者には有利でも、金融機関にとっては利幅が薄い商品だ。信用金庫や信用組合も含めると200近い金融機関が提供しているが、多くは「片手間」で、広告もほとんどされてこなかった。
しかし、法改正で対象者が大きく拡大することで、今後は規模のメリットが生まれることになる。また、個人型DCで新たに投資にチャレンジする人を取り込むことで顧客層のすそ野拡大も狙えるとあって、金融機関でも品揃えやサポート体制を強化する動きがみられている。
すでにSBI証券が法改正を見越して今春に個人型DCで投資できる投信商品を20本追加したほか、りそな銀行でも全店舗で相談や申し込みに応じる体制を整えた。また、楽天証券が新規参入を発表したほか、フィンテックベンチャーの「お金のデザイン」と福利厚生代行の「ベネフィットワン」が業務・資本提携して設立した子会社MYDCも参入する。
個人型DCに加入するには、自分で金融機関を選んで加入手続きをする必要がある。節税メリットはどの金融機関を選んでも同じだが、どんな金融商品に投資できるかは金融機関によって大きく異なる。また、口座を開く際と、維持する間は手数料が必要になるが、この金額も金融機関によって差がある。
このため、金融機関を選ぶ際は、まず投資したい金融商品があるかを確認しよう。仮にインデックス投資を中心に考える場合、TOPIX(東証株価指数)など同じ指数に連動する投信なら運用成績はどれを選んでも同じだが、自動的に差し引かれる信託報酬は商品によって大きく異なるので注意が必要だ。
信託報酬自体はわずかだが、長期間積み重なると見過ごせない額となる。たった0.1%の差でも、100万円を30年間運用すると残る金額は3万円変わることになり、収益に与えるインパクトは小さくない。一つひとつの商品を吟味して、同じような投資商品であればなるべく信託報酬が安いものがある金融機関を選びたい。
■文/森田悦子(ファイナンシャルプランナー・ライター)
※マネーポスト2016年秋号