『健康格差社会』(医学書院刊)の著者で千葉大学予防医学センター教授、国立長寿医療研究センター部長の近藤克則氏らが取り組むAGES(愛知老年学的評価研究)プロジェクトでは、要介護認定を受けていない高齢者3万2891人を対象に調査を行なった。その結果、低所得者は高所得者に比べて、転びやすいという結果が出た。
低所得者が転びやすい理由について、近藤氏は、「うつやそれに伴う身体活動量低下、栄養状態の悪さなどが考えられる」という。
うつ病と低所得者の関係性も顕著だ。近藤氏らの調査では、どの年齢層でも所得が低くなるほどうつ状態の人の割合が多くなり、男性に限っていえば、年収400万円以上の人では2.3%であるのに対し、100万円未満になると15.8%と、実に6.9倍にも跳ね上がる。
そして、転倒や骨折だけでなく、うつも、寝たきりや認知症につながり、将来の「死に方」にも結びついてくる。
厚生労働省は、転倒歴のある人に加えて閉じこもり、うつなどを「要介護状態になりやすい危険因子」として重視している。
「ある自治体の約5000人の高齢者を対象に市の職員が面接調査したところ、どの年齢階層でも、最低所得層で要介護者が一番多いという結果が出ました。平均すると、要介護者の割合が、高所得層で3.7%なのに対し、低所得層では17.2%。その差は実に5倍です」(近藤氏)
要介護状態になっても、低所得者が介護の行き届いた有料老人ホームに入居するのは経済的に難しい。安く入れる特別養護老人ホームは入所希望者が列をなし、何年待っても入れない状況が続いている。
そうした現状を考えれば、低所得者ほど健康チェックを丁寧にすべきなのだが、日本医師会総合政策研究機構主席研究員・佐藤敏信氏は、「健康診断を受けられるかどうか」も、就業状態によって変わってくると指摘する。
「正社員なら職場で、少なくとも1年に1回は健康診断を受けられる。健康保険組合の中には、人間ドックの費用を一部補助してくれるところもある。また、有給休暇が日単位や半日単位でも取れるので、給料を貰いながら病院に通ったり検査を受けたりできる。こうした経済的・時間的な余裕があると、病気を早期発見できるので、健康状態を保つことができます。
しかし非正規ではこうはいかない。非正規にもいろいろなパターンがありますが、アルバイトのような状態では、そもそも社会保険の適用になっているかどうかという問題もある」
※週刊ポスト2016年10月7日号