2015年10月に英誌『エコノミスト』の調査部門が「死の質」ランキングを発表した。緩和ケアや終末期医療の質や普及度に基づく80か国・地域のランキングで日本は14位だった。
「医療先進国」の日本はなぜ、14位に沈んだのか。上位国と比べて、緩和ケアのシステム作りが進んでいないことが一因だと関係者は声を揃える。
緩和ケアの専門医である長尾クリニック院長の長尾和宏氏は患者の意志が尊重されにくいことが、日本の「死の質」を低下させていると指摘する。
「欧米には自己決定の文化がありますが、日本は本人よりも家族や医師の意向が尊重されます。患者本人が延命治療を拒否すると意思表示した文書を『リビング・ウィル』といいますが、日本は先進国で唯一、これが法的に担保されていない。
欧米では本人の意思を尊重した医療が当たり前ですが、日本は本人不在のまま終末期医療が進む。ある調査によれば、終末期医療について、自分で方針を決めたという人は亡くなった人のわずか2~3%でした」
日本は本人不在の終末期医療が多く、アジア諸国にも遅れをとっている。
「アジア圏トップの6位になった台湾は2000年にリビング・ウィルを法制化した。日本を下回る18位の韓国ですら今年2月に法制化しています。日本は医療の質は高いが、“死に方”に関しては世界から20年以上遅れています」(同前)
ドイツの医療・介護事情に詳しい淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授は「死の質」を高めるためには、家族にも相応の「覚悟」が必要だと強調する。
「病院で死ぬ患者の数は、欧米諸国では約50~60%なのに対し、日本は約80%近い。日本の場合、『命を長らえること』を優先して、終末期に在宅医療を進めていても異変があると救急車を呼び、患者を病院に押しつける傾向があります。そこには『死の責任を取りたくない』という思いもある。
苦しくて喘ぐ親を見て、周囲が延命治療を望む気持ちも理解しますが、家族が死に立ち向かわない限り終末期医療は変わりません」
死の質を世界水準に上げるには、家族の覚悟が必要になる。
※週刊ポスト2016年10月7日号