海外マネーの日本株投資に顕著な変化が見られ始めている。海外金融機関の動向について詳しいパルナッソス・インベストメント・ストラテジーズ代表取締役の宮島秀直氏が解説する。
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今年に入って、欧州投資家に限らず外国人投資家は、日本市場ではディフェンシブ株を積極的に買い進めてきた。ディフェンシブ株とは、公益事業あるいは食品、医薬品、鉄道といった公共性の高い事業を手がけているなど、景気変動の影響をそれほど大きく受けないセクター・業種に属する株式を指す。
これまで、こうした外国人投資家のディフェンシブ株へのシフトは、PER(株価収益率)が25 倍に達するといったん収まり、シクリカル株(景気敏感株)に回帰する傾向が見られた。だが、今年はPERが25倍を超えてもシクリカル株回帰が起こらなかったため、ディフェンシブ株のパフォーマンスが際立っていた(8月以降のシクリカル株の一時的な上昇は、短期売買で利益を追求するマルチアセット型投信による模様)。
そこへブレグジット(英国のEU離脱)が起き、外国人投資家のディフェンシブ株物色に新たな段階に入った。これまでディフェンシブとされてきた銘柄よりも、さらにベータ値が低い「低ベータ」銘柄が選好されるようになったのだ。
ベータ値とは、株式市場に対する個別銘柄の株価の反応度を指す。具体的には、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)といった株価指数が変動したときに、個別銘柄がどの程度変動するかを数値で表わしている。
例えば、ベータ値の数値が「1」の銘柄は、TOPIXが1%上昇すると1%上昇し、1%下落すれば1%下落するというように、TOPIXと同じ値動きをすることを意味する。ベータ値が「2」の銘柄は、TOPIXが1%変動するとその2倍の2%変動し、ベータ値が「0.5」の銘柄であれば、1%の変動に対して0.5%変動する。
また、ベータ値がマイナスとなる銘柄も存在するが、これはTOPIXが上昇すると下落するといったように、逆相関の関係になっている銘柄である。
ベータ値は、個別銘柄のリスクを知るために参考にされる。「1」なら株価指数と同程度のリスクであり、「1」以下なら株価指数よりもリスクが低いことになる。外国人投資家は、従来のディフェンシブ株よりも、さらにリスクが低いディフェンシブ株を買っているわけだ。
実際に、運用額で世界最大手クラスの投資信託運用会社は、日本の低ベータ銘柄の中から、ROA(総資本利益率)が高く、EPS(1株あたり利益)伸び率の高い銘柄をピックアップしたファンドを外国人投資家に提供している。さらに、別の大手投信も同様のファンド組成を進めているようだ。
あるファンドマネージャーからは、「日本のシクリカル銘柄は世界最弱だが、低ベータ、高ROA、高EPS伸び率の新ディフェンシブ銘柄は最強だ」といった声も聞かれる。経済が縮小均衡するデフレ下にあって収益を出し続けている、日本のディフェンシブ株に対する評価は高い。
ディフェンシブ株であるだけに、それほど大きな上昇は見込めないものの、「日本株は下値が他国市場に比べ顕著に堅くなり、投資環境の相対的優位性が高まった」と語る投資家は多く、その中には、世界最大のヘッジファンド・ブリッジウォーター社のレイモンド・ダリオ氏も含まれている。
欧州からの資金流入に加え、日銀が7月の金融政策決定会合で、株価指数連動型のETF(上場投資信託)の買い入れを、年間3.3兆円から6兆円に増額した。この追加緩和を受けて、海外の投機勢は、日本株の売り仕掛けは当面見送るとする向きが多い。英国のEU離脱協議の本格化や各国の総選挙など2017年のEUの政治的混乱が顕在化するまでは、日本株は底堅い展開が続くだろう。
※マネーポスト2016年秋号