『めぐり逢えたら』や『ユー・ガット・メール』などを手掛けた“ラブコメの女王”ノーラ・エフロン著のエッセイ『首のたるみが気になるの』(集英社)にはこんな一節がある。
《カラーリングはあらゆることを変えた。しかし、その功績はほとんど認められていない。ヘアカラーは、老いた女性が若者文化に対抗するための最大の武器である。少なくとも髪の毛に関するかぎり、ヘアカラーが時計の針を止めることに成功したのである》
作家・エッセイストの阿川佐和子さん(62才)は、エフロンの意見に賛同しながら、同書の和訳を担当したと振り返る。
「若返りたいけど整形に対しては否定的で、頬っぺたを釣り上げたら首はどうするんだっていうこととか、アンチエイジングなんて、てやんでえ! みたいな、年配女ならではの本音が面白くて、翻訳中もよく噴き出してましたね。
自然がいちばんだという気持ちがある一方で、でもやっぱりみすぼらしいババアにはなりたくないって思う気持ちもある。白髪だって染めても染めなくてもどっちでもいいけれど、染めれば確かに若く見えるようになるのもわかってる。白いのがちょっと見えると所帯やつれしているように見えるしね」
そう話す阿川さんは、もう5 年ほど美容院に行っていない。それは、昨夏94才で大往生した父・阿川弘之氏の介護が始まった頃と重なる。
「美容院って3時間ぐらいかかるでしょ。ただでさえその時間を作ることが難しいのに、行っている間に何もできなくなって。
昔は資料を読む時間にあてていたのが、老眼だから全然読めなくなったのね。かといって老眼鏡もかけられないでしょ。さらに予約もなかなか取れないってなれば、自然と足が遠のきますよ。
今はカットも自分だし、白髪もちょっと気になってきたらお風呂に入る20分前にちょいちょいって染めてます」(阿川さん)
ただ、阿川さんの「白髪染め」には、「老いに抵抗して」というような必死さはちっともない。お風呂に入る。髪を洗って乾かす。朝ご飯を食べる。適度に体を動かす…というような日々の当たり前の習慣の中に、「あ、白いのが出てきた。そろそろ染めようかな」という程度の、とるにたらない日常となっている。
「昔は染めるといえば黒。染めないといえば白。選択肢が少なかったんですよ。だって逆に、真っ白に染める人もいるわけじゃない。
ファッションと同じですよね。昔はスカートもミニが流行ればみんなミニ。パンツも太いのが流行ればみんな太いパンツをはいていたでしょ? でも今は“今年はこの丈”って言ったって、ミニの人もいればロングの人もいます。パンツもキュロットをガウチョと言ってはいたりね。
そんな時代になってきたから、髪のカラーリングにもバリエーションが出てきた。だから、白でも平気なんです。でも、それは、“おばあさんに見られても平気”ということとは違うんじゃないかなあ」(阿川さん)
※女性セブン2016年10月13日号