北方領土をめぐる日ロの“秘密交渉”が大詰めを迎えている。さる9月2日、安倍首相はウラジオストクの極東連邦大学でプーチン大統領と夕食会を含めて3時間以上にわたって首脳会談を行ない、途中、「1対1の時間を取って議論したい」と申し入れて通訳だけを交えた膝詰め談判を行なった。
内容は一切、開示されていない。しかし、翌日に同地で開催された「東方経済フォーラム」の全体会合で秘密会談の核心を示唆する興味深い光景があった。
スピーチに立った安倍首相は、米国はじめ各国の代表団が居並ぶ中、プーチン大統領に向かって「ウラジーミル」とファーストネームでこう呼び掛けた。
「あなたと私には、この先、大きな、大きな課題が待ち受けています。重要な隣国同士であるロシアと日本が、今日に至るまで平和条約を締結していないのは、異常な事態だと言わざるを得ません。(中略)それを放置していては、私も、あなたも、未来の世代に対してより良い可能性を残すことができません」
そのうえで、およそそうした場にはそぐわない「覚悟」という言葉を口にした。
「私は、ウラジーミル、あなたと一緒に、力の限り、日本とロシアの関係を前進させる覚悟です」
最初に大きな拍手を送ったのはプーチン大統領自身だった。最初は戸惑っていたロシアの要人たちが後に続き、やがて会場全体が拍手に包まれた。
北方領土──日本がポツダム宣言を受諾して太平洋戦争が終結した直後の1945年8月28日、旧ソ連軍は突然、日本領の歯舞諸島、色丹、国後、択捉の北方4島に上陸し、以来、70年以上にわたって不法占拠状態が続いている。
※週刊ポスト2016年10月14・21日号