2012年には1000万人に達していなかった訪日外国人客が、2015年には1973万人に急増。政府は「2020年までに2000万人」という目標を一気に3000万人に引き上げた。彼らが国内で落とすお金には期待が集まっているが、同時に外国人の文化をいかに受け入れるのかが今後の大きな課題だ。外国から来た知人が入れ墨を理由にプールの入場を拒否されてしまった場合、これを覆す方法はないのか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
今夏、アメリカの友人の息子をホームステイさせました。その彼が入れ墨を理由に市営プールから入場拒否されたそうです。彼の腕に彫られた入れ墨は金髪美女といった他愛ないもので、それでも入場を拒んだ市営プール側に問題があると思います。また、この対処は人権侵害に触れることになりませんか。
【回答】
市営プールは、市が「住民の福祉を増進する目的をもって、その利用に供するため」に設ける公の施設で、地方自治法は「正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない」と定めています。
そこで入れ墨がプールの利用を断わる「正当な理由」になるかが問題です。我が国でも、ファッションの一つとして入れ墨を入れる者がいますが、他方で反社会的組織の構成員に入れ墨をしている者も多く、入れ墨をしている者に対し、不安を抱いたり、威圧を感じる人がいるのも事実です。
以前に職員に対し、入れ墨の有無を回答するよう求めた職務命令が個人情報保護条例に違反しないか問題になった事件で、大阪高裁は入れ墨に畏怖感を抱くことは偏見とはいえず「他人から入れ墨を見せられないようにする配慮は社会的相当性を有する」と判断しています。
また、スポーツ施設を備えたマンションで、入れ墨をした住民が利用できないよう管理規約を変更したことの適法性が問題になった事件では、東京地裁も大阪高裁同様、入れ墨により反社会的勢力との関係が疑われ、一般市民の中で入れ墨をした者は異端の存在として社会的差別を受け、その社会的差別は一般市民の中で許容されているのが実情であり、入れ墨をした以上、これによる社会的差別を受忍すべきだとして、管理規約変更を適法と判断しました。
日本文化の中では入れ墨への嫌悪感があり、公衆浴場や民営プールなどで入場制限も通常見られます。しかし、市営のプールでは現実に畏怖を覚えさせるような入れ墨でなければ、入場拒否の正当な理由になるか疑問です。
地方自治法では、こうした場合の苦情を処理する審査請求制度を設けていますので、市長に申し出てはいかがですか。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2016年10月14・21日号