その薬を飲むか、その手術を受けるかで、生き方も、そして死に方も大きく変わる。問題は、それを判断する根拠が患者側に与えられていないことにある。自分で納得できる選択をするために、有益なデータがアメリカにあった。
自分で薬や治療法の「本当の実力」を知るための指標として、注目を集めているのがNNT(Number Needed to Treat)、日本語で「治療必要数」と呼ばれる数値である。神戸学院大学教授の駒村和雄氏(循環器内科医)が解説する。
「NNTは、薬や手術の臨床試験の結果を用いて、“1人の病気の発症や死亡を防ぐのに、何人がその治療を受ける必要があったか”を表わす数字です。つまり、その治療で何人の命が救えたのか──その実数がわかる重要な指標です」
2010年、米国の「根拠に基づく救急医療」を推進する医師グループにより設立されたインターネットサイト「the NNT」には、多くの治療法のNNTが公表され、世界中の医療関係者が閲覧している。そして同サイトには「逆」の数値も示されている。その治療法で「何人1人の割合で副作用が出るか」を表わすNNH(有害必要数)である。
今回、本誌は医療経済ジャーナリストの室井一辰氏の協力のもと、「the NNT」に加え、国際論文データベース「NCBI Pubmed」から、NNTが記載されている論文を抽出して分析した。がんに関する「命が助かる確率」を公開する(以下、NNTは「○」、NNHは「×」として表記)。
【手術可能な胃がんにおける放射線治療】
○5年間で17人に1人は5年間の生存が確保。
×副作用として、大半の患者に白血球の減少が起こり、半数近くの患者に下痢など胃腸への副作用が起きる
数値の算定法は、薬であれば被験者となる患者を「実薬を飲むグループ」と「偽薬を飲むグループ」に分けて比較検証される。
例えば、それぞれのグループ100人を5年間追跡し、偽薬群では15人が死亡したのに対し、実薬群では死亡が5人に減ったとする。この場合、薬を服用することで10分の1(100人中10人)が死を回避したことになる。残りの10分の9は、「薬を飲んでも飲まなくても結果は変わらなかった」ことを意味する(「薬の効き目がなかった」という意味ではない)。
手術や健診の場合も同様に、被験者を手術群と非手術群(薬による治療)、検診群と非検診群とに分けて比較検証し、数値を導き出す。室井氏が解説する。
「NNTは数値が小さいほど効果が大きいとみなされます。20台以下(20人に1人以上)なら、現在、医療分野で評価されている治療法の効果を考えると、有効であると考えられます。
問題はNNTによる利益とNNHによる副作用をどう天秤に掛けるかです。胃がんの放射線治療でいえば、患者が白血球減少の副作用リスクを重いと考えるかどうかですが、私の考えでは、生存効果の高さをメリットとみなして推奨される治療法だと思います」