所信表明演説中の首相に総立ちで拍手を送る国会の光景は、政治が変わってしまったことを改めて実感させた──。第一次安倍政権の官房長官を務め、安倍晋三首相の盟友だった与謝野馨氏(78)は、この現状について何を思うか。いまの政界への思いを聞いた(※与謝野氏は咽頭がん手術の影響のため、書面を通じた一問一答を行なった)。
──今の自民党について。
与謝野:消費税を引き延ばすことに対する影響、インパクトについては皆、こそこそ議論していたが、政治家も役人も誰一人としてその危うさを表立って議論した人はいません。
一強のもとでは(自民党総裁の)任期延長のような、権力者が喜びそうな話が出てきます。権力の過度の集中をどうするのか? 任期はそもそもなぜ限定的なのかということは議論されていません。
議員ひとりひとりは、自分の将来のポストなぞ考えないで、のびのびと発言ができる自民党であってほしい(これも小選挙区制の悪いところが出ている)。
──保守政治の本流と現在の政治の違いは?
与謝野:まず日本の憲法の原案を書いた人々はかなり進歩的な少壮の学者であったこと。働く人に手厚くというのは自民党の原点であると思います。
一時期はやった「新自由主義」というのは、自己責任を強調するあまり、強い者がさらに強く、弱い者がさらに弱くなっても、弱くなるのは自らの責任という考えです。
今の政権は正規、非正規の対等化など考えていてそれなりに評価されるべきだと思います(同一労働、同一賃金はよい考え方)。
世界的に仏、独、英等で右が伸びてきています。狭い視野に立つこれらの政治の流れに害されてはいけないと思います。
──天皇の生前退位について。
与謝野:象徴である前に80歳を越えられた方。どの位疲れておられるか、やはり高齢者に対する配慮は必要であります。一代限りでもよい。ご本人がTVを通じて公民に広く申し上げたことは実現しなければいけない。
──現在の関心事は?
与謝野:やはり今の財政は日銀が「80兆円/年」のお金を印刷してなり立っている。政府・政治家にとって都合がよいのですが、将来のリスクの要因は蓄積されつづけています。
──近況について。
与謝野:特に変わったことはありませんが、年を感じる毎日です。
●よさの・かおる/1938年生まれ。1976年初当選。文部大臣、通産大臣、官房長官、財務大臣などを歴任。
※週刊ポスト2016年10月14・21日号