12月のロシア、プーチン大統領の訪日を控え、北方領土返還交渉に日ロ間で進んでいる。「まず色丹・歯舞の2島を返還させるのか」「まず4島についての日本の主権をロシアに認めさせるのか」に注目が集まるなか、“異色の主張”を掲げているのが日本共産党だ。
日本の主要政党のなかで唯一、共産党だけはカムチャツカ半島のすぐ南にある占守島以南の「全千島列島」の返還を要求している。同党HPに志位和夫・委員長名で公表された文書には〈全千島列島が返還されるべき正当な根拠をもった日本の領土〉とある。
1951年のサンフランシスコ講和条約で日本は千島列島を放棄しているが、なぜ共産党はそれを丸ごと取り返すという「大きな要求」を掲げるのか。党本部の担当者はこう説明する。
「千島列島は歴史的にも日本の領土で、先の戦争で武力によって奪われた。ロシアと平和条約を締結するのであれば、4島のみならず千島列島の全島返還を求め、戦争前の状態に戻すことが正しい筋道でしょう」
この話は、前提に微妙な食い違いがある。日本政府の立場は〈そもそも北方四島は千島列島には含まれません〉(外務省HPより)というもの。
一方の共産党は、放棄した千島列島に択捉・国後が含まれていたとする立場だ(歯舞・色丹は北海道の一部)。
たしかに1951年の講和条約批准にあたっての国会審議で外務省の担当局長は“千島列島に択捉・国後が含まれる”という旨の答弁をしている。共産党は、政府が1955年からの日ソ国交正常化交渉のなかで、〈突然それまでの立場を変え、「国後、択捉は千島列島ではないから返還せよ」と主張〉(同党HP)したと批判している。いったん放棄したものの一部を“やっぱり放棄していない”と言を翻したりするから、交渉が進まない──というのが共産党の主張である。
では、今回浮上した「歯舞・色丹の2島引き渡し」については、どうみるか。この2島が千島列島ではなく北海道の一部、という点は、政府も共産党も一致している。
「まだ政府がその通り交渉をするかわからないのでコメントは控えたいが、国境を曖昧にしたまま、“まず2島返還で合意”などというやり方は、後世に火種を残す可能性が高い。そんな交渉で国民は納得するか疑問だ」(前出の党本部担当者)
共産党は「全千島列島返還」を求め続けるようだが、その実現のハードルが高いことは間違いないだろう。
※週刊ポスト2016年10月14・21日号