現在、多くの有名人・著名人が相次いで「乳がん」をカミングアウトしている。読売テレビのアナウンサー・清水健氏が乳がんで他界した妻・奈緒さんの闘病をつづった手記『112日間のママ』が話題になるなど、いま世の多くの女性が乳がんに対する不安を抱いているといっても過言ではない状況だ。
一方で、男性の場合は、「乳がんは他人事」と思ってはいないか。だが実は、男性しか罹らないがんが、ものすごいスピードで増えているのである。それが、“前立腺がん”だ。実際、「前立腺がんに罹った」人間は数多く、天皇陛下をはじめ、東京五輪問題で何かと話題の森喜朗元首相から日本初のノーベル賞学者・湯川秀樹氏、フランス元大統領ミッテラン氏まで枚挙に暇がない。今年になっても、芸人の西川きよし、元ローリングストーンズのビル・ワイマンが公表して話題となった。前立腺がんはすでに、極めて身近な存在なのだ。
さらに、ここに衝撃のデータがある。2000年から2004年の前立腺がんの罹患者数は、実測値で年平均3万420人だったが、2015年に「国立がん研究センターがん対策情報センター」から発表されたがん罹患率の短期予想では、10年前の3倍、9万8400人もの男性が前立腺がんになるというのだ。それも胃がんや肺がんを抑えての1位である。さらに、今年2016年に発表された最新の罹患率予測でも、前立腺がんが2年連続1位となった。まさに、私たちが知らないうちに、“前立腺がんの時代”に突入していたのである。
いったい前立腺がんになるとどうなるのか。『前立腺がんは怖くない――最先端治療の現場から』(小学館新書)を上梓したばかりの、この分野の世界的第一人者である東京慈恵会医科大学泌尿器科主任教授兼診療部長・頴川晋(えがわ・しん)氏は、「前立腺がんが転移するとたいへんなことになる」と警鐘を鳴らす。
「前立腺がんの場合、最も恐ろしいのは骨への転移です。通常のがんは『溶骨』といって骨を溶かしますが、前立腺がんの骨への転移は『造骨』といって骨を増やします。患者さんの中には、この痛みを『内側からハンマーで叩かれるような痛み』とおっしゃった方もいます。そしてこの痛みは、長く続くのです」
手遅れにならないためには、どうしたらいいのか。頴川教授は、早めに「PSA(前立腺特異抗原)検査」を受け、前立腺がんの早期発見に努めることが大事だという。
「前立腺がんの治療は、日々進歩しています。早期発見さえできれば、前立腺がんは怖くありません。前立腺は男性に必ずある臓器です。男性は、前立腺がん、前立腺肥大症……と前立腺の病気からは逃れられません。だからこそ男性は、女性が乳がんを意識するのと同じように、日常からご自身の前立腺に関心を持ち、上手につき合うことが必要なのです」