自分で薬や治療法の「本当の実力」を知るための指標「NNT(Number Needed to Treat=治療必要数)と呼ばれる数値が注目を集めている。
NNTは、「薬や手術の臨床試験の結果を用いて、“1人の病気の発症や死亡を防ぐのに、何人がその治療を受ける必要があったか”を表わす数字」のこと。また、その逆の数値である「NNH(有害必要数=その治療法で「何人に1人の割合で副作用が出るか」を表わす)も存在する。
今回、本誌は医療経済ジャーナリストの室井一辰氏の協力のもと、「the NNT」に加え、国際論文データベース「NCBI Pubmed」から、NNTが記載されている論文を抽出して分析。大腸がんと前立腺がんに関する「命が助かる確率」を公開する(以下、NNTは「○」、NNHは「×」として表記)。
【大腸がんの治療で用いられる抗がん剤「パニツムマブ(商品名セツキシマブ)」】
○11~23人に1人はがんの進行が止まり、生存期間が延びる。ただし、この効果は特定の遺伝子(KRAS野生型)を持った人で、すでに抗がん剤治療を受けている人に限られる。初めての治療法としての効果は確認されていない。
×23人に1人よりも高い頻度で皮膚への副作用、下痢、感染症、赤血球減少、粘膜炎のいずれかを起こす。
セツキシマブは治癒切除が不可能な進行・再発の大腸がんを対象とした分子標的薬。08年に製造販売承認されて以降、大腸がん治療で頻用されている。
「NNTとNNHを比較すると、メリットを享受できる可能性のある対象者が限定されている上に、副作用も高確率で起こるといえるでしょう」(室井氏)
【前立腺がん発見のために行なわれるPSA(前立腺特異抗原)検査】
○死亡を避けられる人は0人。
×5人に1人は偽陽性で無駄な細胞診検査を受ける。
新潟大学名誉教授の岡田正彦氏が指摘する。
「5人に1人は偽陽性、つまりがんと誤診される。これこそPSA検査に代表されるがん検診の最大の問題点で、誤診されたことによるストレスや不必要な治療・手術を受けたことで逆に寿命を縮めてしまうケースが多い。NNTには肺がん診断のCT検査の数字なども公表されていますが、総じてがん検診に死亡率を下げる効果はほとんどなく、不利益のほうが大きいと考えられます」
NNTの数字はあくまで統計上の数値であり、絶対的なものではない。NNTの被験者に対する追跡期間の多くは5~8年程度で、ある一定期間の観察から導き出された数字だ。その後も追跡調査を継続すれば、数値が変動する可能性はある。
※週刊ポスト2016年10月14・21日号