12月のロシア、プーチン大統領の訪日を控え、北方領土返還交渉が水面下で進んでいる。返還の見返りに経済協力というのが相場だが、領土をカネで買うのは決して珍しくない。
米国が1867年に帝政ロシアの植民地だったアラスカを買い取った金額は720万ドル。現在価値で約4億6000万ドルにあたる。あの広い領土を500億円程度で買ったのだから格安だった。
日本も沖縄返還(1972年)の際、返還協定の「特別支出金」として米国に総額3億2000万ドルを支払っている。当時は1ドル=360円の時代で、物価を考えると現在の5000億円以上に相当する。
北方領土の場合、1990年に金丸信・自民党副総裁が「私は買ってもいいと思う」と発言して物議をかもしたことがあるが、返還にあたって経済協力などのカネがかかるのは間違いない。
金丸発言当時はソ連が経済危機に陥っており、日ソ友好シンポジウムで旧ソ連側の参加者から「4島は50億ドル(当時のレートで約8000億円)くらいに相当すると思う。その程度の経済援助をしてくれるなら、島はお返しできると思う」という金額が提示されたことがある。当時、自民党幹事長だった小沢一郎氏がゴルバチョフ大統領との間で極秘の北方領土返還交渉を行なった金額も同程度だったと見られている。
ところが、その後、ロシアは価値のつり上げにかかった。北方領土周辺には石油や天然ガス、レアメタルのレニウムなど豊富な資源が眠っているとされ、ロシア天然資源・環境省によると、これらの資源価値は2兆5000億ドルに上ると推計されている。いくら何でも盛りすぎではないか。
安倍政権は今回の交渉で三井物産と国の国際協力銀行(JBIC)が共同でロシアの国営電力大手ルスギドロに計217億ルーブル(約340億円)を投資するなど、大手商社やプラント会社の投資話が進められているが、それらはいわば交渉の“手付金”だろう。
政界には、「北方領土は沖縄県の全部の島を合わせた面積の2倍以上ある。沖縄の返還コストと比較すると少なくとも1兆~2兆円の経済協力は必要ではないか」という声もあるが、果たしてそんな金額で収まるかどうか。
※週刊ポスト2016年10月14・21日号