所信表明演説中の首相に総立ちで拍手を送る国会の光景は、政治が変わってしまったことを改めて実感させた。政界を引退したOBは、この現状について何を思うか──。民主党政権時代に長く金融担当大臣を務めた自見庄三郎氏(70)が、アベノミクスを鋭く斬る。
* * *
黒田東彦・日銀総裁の金融緩和政策は当初、「黒田バズーカ」ともてはやされました。が、私は黒田バズーカは“真珠湾攻撃”だと思うのです。最初の一撃は見事に効く。確かに株価と為替は動きましたが、そのまま果たして順調に進むのだろうか。すぐに“ガダルカナル”になってしまうのではないでしょうか。
金融緩和に意味がないとは言わないが、金融はしょせん金融に過ぎず、実体経済ではありません。一時的な“メッキ”として効果はあるかもしれないが、問題解決にはならない。その証拠に、2年で物価上昇率2%を掲げながら、その目標は達成できていません。
金融緩和によって得た結果は、株価が上がったことと、円高から円安への転換。これは確かに成功しました。特に経済界は円高が景気減退の元凶だとして、円高解消を強く政府に求めていた。そうすれば輸出が増え、雇用にも好影響を与えると経済界は訴えた。
それに応じて日銀は金融緩和を実施して、円安にシフトさせたわけです。しかし、実際はどうなったか。円安になっても輸出は全然増えない。雇用も戻らない。それは当たり前のことで、国内メーカーの多くがすでに海外現地生産を行なっていたからです。
輸出が増えないと企業は儲からないのかと思ったら、海外の利益が円安によってかさ上げされ、過去最高益を出す企業が続出。円安で企業は儲かりました。しかし、輸出は増えないし、雇用も増えない。
かつて渡辺美智雄さんはこう言っていた。「商社の情報というのは凄い。外務省が持ってくるものと比べて非常にレベルが高い。それというのも、商売が懸かっている彼らは必死で情報を取ってくるからだ」と。その上で、こう付け加えました。「でも、相手はあくまで商売人。騙されてはいかんよ」──と。
円高不況に乗じて、政府は経済界から騙された。それが私のアベノミクスに対する評価です。
●じみ・しょうざぶろう/1945年生まれ。1983年初当選。郵政大臣、金融担当大臣を歴任。国民新党代表も務めた。
※週刊ポスト2016年10月14・21日号