母国で韓国人男性と結婚し、子育て中の在日韓国人女性2人が、韓国政府を相手取り憲法違反であるとして訴えを起こした。一体何が起きているのか。在韓国ジャーナリストの藤原修平氏がレポートする。
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訴え出たのは、韓国で暮らす30代の在日3世の女性2人。韓国で子育て家庭に支給される「保育料支援」が、自分たちの子供が満4歳になった今も支給されないのは韓国政府の差別だとして昨年11月、憲法裁判所に訴願を行った(韓国「聯合ニュース」2015年11月17日付)。不支給の決定は日本の特別永住者(*)であること、つまり「在日」であることが理由だという。
【*1991年に施行された「入管特例法」により定められた在留資格を持つ人のこと。台湾や朝鮮半島などの旧植民地出身者及びその子孫などが該当する。】
「保育料支援」とは、韓国で子供を保育所などの施設に預けるためにかかる費用の一部を国が支援するもので、満5歳までの子供が支給対象となる。その額は満0歳が最も高く毎月40万6000ウォン(約3万7000円)。成長に従い少なくなり、満5歳では同22万ウォン(約2万円)が支給される。
韓国国民の子供はもちろん、韓国人と外国人のあいだに生まれた子供(「多文化家庭」と呼ばれる)や難民にも支給される一方で、政府の「支援対象選定基準」には在外国民を除外する規定がある。在日韓国人はこの在外国民に含まれ、不支給となるという。
今回の原告の一人は、日本で音大を卒業したのちにソウルの梨花女子大学へ進学。もう一人は日本でファッションモデルをしていたが、活動の場を広げるために韓国へ渡った。その後、2人とも韓国人男性と結婚。韓国で子育てをしている。
彼女たちは聯合ニュースの取材に応じ、「いつも憧れていた母国が在日同胞を差別するなら、私たちはどこで暮らしていけばよいのか」「日本で韓国籍を守ってきたことが誇りだったのに、それがあっという間に崩れ去った」など苦しい胸の内を訴えている。
原告2人の法定代理人である法律事務所ロゴスのミン・ヒョンギ常任顧問弁護士は同記事の中で「保育料をめぐり、特別な理由がなく在日同胞の子供だけ排除したのは、憲法に記載されている平等権・保健権・経済権の明白な侵害」と述べている。
同事務所にあらためてコメントを求めたが、「現在係争中のため応じられない」との回答だった。
【PROFILE】藤原修平●1973年岩手県生まれ。韓国、中国東北部を中心に東アジア地域の取材を行う。2009年より韓国在住。
※SAPIO2016年11月号