これまで1万世帯を超える家計を診断してきた「家計の見直し相談センター」の藤川太氏によれば、“マネー失敗者”たちの「しくじり」には共通のパターンがあるという。その1つが、自分1人で勝手に行動して失敗するケース。他人のアドバイスを聞かずに失敗し、それを取り返そうと「今度こそ大丈夫」と信じ込み、さらに失敗が重なり……。そんな失敗に陥った2人の例を、藤川氏が紹介する。
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【飲食店経営に挑戦した元サラリーマン・Aさん(40代=当時)】
年収1000万円を超える高収入のサラリーマンだったAさんは、かねてから独立心が強く、会社を辞めて、1000万円超の蓄財を元手に飲食店経営に乗り出すことを決意しました。
それまで会社員として優秀な成績を上げてきたとはいえ、飲食店経営に関しては素人同然。小さく産んで大きく育てるのがビジネスの基本なのに、Aさんはいきなり大きな店を構え、預貯金は開店資金で使い果たしてしまいました。案の定、お店は軌道に乗らず、赤字続き。預貯金も底を突き、金融機関から借金を重ねても客足は一向に伸びません。子どもが産まれ、たまりかねたAさんは店を畳み、会社勤めに戻りました。
ところが、そこで諦めておけばよかったのに、夢を捨てきれず、「今度はうまくいくはず」と親戚から資金を掻き集めて、再び飲食店経営に乗り出します。
私のところに夫婦揃って相談に来たのは、その頃でした。「いったん撤退して足元を固めないと、何もかも散り散りになる」とアドバイスしましたが、Aさんは相当な自信家で「自分ならできる」とまったく人の話を聞こうとしません。
当然、うまくいくはずもなく、やがて奥さんは愛想を尽かして実家に帰り、お店も閉店に追い込まれます。まもなく奥さんとは別居から離婚へと発展し、親戚からも総スカン。Aさんは自分の夢も家族も失ってしまいました。
投資の世界も同じですが、何の知識も経験もないところにいきなり大金を突っ込んでも、うまくいくはずがありません。うまくいく仕組みをつくってからでも、決して遅くはない。Aさんが失敗を重ねることは明らかでした。
【周囲の反対を押し切って突然選挙に出馬したBさん(男性・60代=当時)】
建設業を経営し、一財産を築いていたBさんですが、突然、地方議員に立候補すると出馬表明しました。ある程度のお金を手にすると、次は名誉が欲しくなるのでしょう。家族や親戚は猛反対しましたが、「疲弊した地方経済をよくしたい」などと周囲にはばかることなく“世直し”を口にし、選挙戦に突入。結局、供託金やポスター代などを含め、1000万円以上をつぎ込みましたが、大した地盤も看板も持たず、あえなく落選しました。
資産家のBさんにとって1000万円超の損失はそこまでの痛手ではありません。しかし、出馬したことで、落選後は本業にまで悪影響が及びました。地域に根差した建設業では地元のしがらみは決して小さくありません。保守色の強い「ムラ社会」では、政治的な色がつくと仕事が受けにくくなるのは自明の理でした。
そればかりか、家族や親戚からも「出馬だけでも恥ずかしいのに、落選したことでさらに辱めを受ける」などと責められ、辛苦がたたったのか、Bさんはほどなくして亡くなってしまいました。お金よりも大切なものを失う最悪の結末で、「出馬さえしなきゃよかったのに」といっても後の祭りでした。
【まとめ】
・それまで一定の成功を収めてきたせいか自信家が多く、他人のアドバイスを聞こうとしない。自分一人で判断するが、実際は自分でもそれほど深くは考えていない。
・ビジネスや投資、浪費、出馬など、それまで経験のないことを突如始めて失敗を重ねる。
・対策としては、他人のアドバイスを聞き、それらを踏まえて自分でもよく考えること。
※マネーポスト2016年秋号