経済は生き物であると言われる。政府が景気浮揚のために策を尽くしても、思い通りにならないことも多い。では、経済はどのようなメカニズムで動いているのか。いま何が起きているのか。新聞ではわからないそんな疑問に、大前研一氏が答える。今回の疑問は、「日本銀行やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が日本株を買いまくっているのに、なぜ株価は上がらないのか?」「両者の日本株買いは、本質的にはどういう意味を持つのか?」である。
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最近の株式市場でよく報じられるキーワードは「底堅さ」だ。日経平均株価(日経225)は7月に1万6000円割れしても下値を掘ることなく、1万7000円台を回復。その後、再び下落したものの1万6000円台前後を行き来する展開が続いてきた。極端な底割れリスクが低くなったことから「底堅い」と言われているのだ。
その背景にあるのが、日本銀行とGPIFによる事実上のPKO(Price Keeping Operation=株価維持策)だ。
たとえば、日銀はETF(Exchange Traded Fund=上場投資信託)の年間購入額を今年7月29日に3兆3000億円から6兆円に増やし、9月は15日までに733億円ずつ6回にわたって買い入れた。ETFは日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)などと連動する運用成果を目指し、東京証券取引所などの金融商品取引所に上場している投資信託で、個別に投資先の会社を選ぶ必要がない。
GPIFは約130兆円の年金積立金のうち約2割を国内株式に振り向けており、JPX日経インデックス400(日本取引所グループ、東京証券取引所、日本経済新聞社が共同で開発し、2014年1月から公表が始まった株価指数。400銘柄が対象)などをベンチマーク(指標)として運用している。
ただし、最近の運用実績は惨憺たるものだ。国内外の債券や株式などを合わせた年金積立金全体で、2015年度は134兆7475億円を運用して5兆3098億円のマイナス、2016年度第1四半期は129兆7012億円を運用して5兆2342億円のマイナスとなっている。
つまり、私たちの年金積立金はこの1年3か月の間に10兆5000億円以上も減ってしまったわけだ。市場運用を開始した2001年度以降の累積収益額は約40兆円のプラスだが、この調子では累積収益をすべて溶かしてしまいかねない。