カリスマFXトレーダー・羊飼い氏が、外為市場の旬な話題をウォッチする連載「FXトレンドフォーキャスト」。ここでは高金利通貨の「スワップ狙いトレード」のリスクと注意点について、羊飼い氏が解説する。
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政変に伴う為替相場の急変で、FX投資家が損失を被るケースは少なくない。日本時間の7月16日(土)未明、トルコで軍の一部勢力がクーデターを試み、イスタンブールや首都アンカラの主要道路や国営テレビ局を一時占拠する事件が発生した。
最終的には未遂に終わったものの、このニュースは週末を目前に控えたニューヨーク為替市場を直撃し、トルコの通貨リラはわずか2時間程で36円台半ばから34円台半ばまで急落した。その下落率は5%を超えており、米ドル円なら5円以上一気に動いたようなイメージだ。この急激な相場変動で、SNSなどでは「大損失を被った」といった阿鼻叫喚の声が飛び交った。
トルコの通貨リラは、マイナー通貨ながら投資家には根強い人気がある。理由はなんといってもその金利の高さだ。
周知の通り、近年のアメリカや欧州など主要国の金利はゼロに近く、かつて流行したような長期保有でコツコツとスワップ金利(※取引する通貨間の金利差を日割り計算で表わしたもの)を受け取る「スワップ狙い」の投資は難しくなっている。こうした中でもトルコは7.5%と高い政策金利を維持しており、7%の南アフリカの通貨ランドと並んで「スワップ派」の支持を得ているのだ。
スワップ金利に着目すれば、両国の水準はかなり魅力的だ。FXならレバレッジをかけられるので、計算上はレバレッジ10倍なら年利70%以上、25倍なら175%以上のスワップ金利を受け取ることになる。
こうした高いスワップ金利を狙う取引は、「ほったらかしでもOK」というイメージが強いせいか、特に投資初心者に人気がある。しかし、現実にはほったらかしで確実に儲け続けられる方法などあるわけがない。今回の騒ぎに巻き込まれたのは主に、FXのリスクを十分に理解しないまま、安易にロングのポジションを積み上げていた投資家だと考えられる。
◆金利のみを享受する「裏ワザ」に潜むリスク
そもそも、トルコや南アフリカの政策金利が高いことには理由がある。いずれも恒常的な経常赤字国であり、インフレ率は高止まりしている。トルコは輸出できるような有力な資源もなく、金利を高く設定しなければ外貨を呼び込むことができない。一方、資源国である南アフリカも、資源安などを背景にランドは史上最安値圏にある。
また、いずれの通貨も取引コストであるスプレッドが主要通貨に比べるとかなり広くなっている点にも注意したい。100円前後のドル円のスプレッドが0.3銭程度であるのに対し、7円台のランド円のスプレッドには片道1銭以上かかるため、その分、コストが高いことがわかる。
注意したいのは通貨単位だ。ドルやユーロなどの主要通貨が100円程度なのに対し、トルコリラは30円台、南アフリカランドは7円台。つまり、同じ1円の動きでも変動幅は大きくなる。リスクをとって為替差益を取りに行くトレーダーにはチャンスがあるかもしれないが、スワップ狙いの投資家がレバレッジを高くしすぎていると強制ロスカットの危険が高まる。
中には、為替変動リスクを抑えながらスワップ金利を得る「裏ワザ」を駆使する投資家もいる。複数のFX会社を利用した両建て取引を利用する方法だ。
ロングしたときの受け取りスワップが高いFX会社と、ショートしたときの支払いスワップが低いFX会社にそれぞれ口座を開き、支払いスワップより受け取りスワップが大きくなることを確認したうえで、同じ量の買いと売りのポジションを持つのだ。両建てで為替変動リスクを抑えながら、スワップの差額を得ることができるという算段だ。
とはいえ、一見、安全に見えるこの方法にもリスクはある。スワップ金利は一定ではなく変動するので、絶えずチェックしていないと、いつの間にか支払いスワップが受け取りを上回るということも起こりうる。
また、受け取りスワップは両建てで相殺されて額が小さくなっているので、まとまった利益を狙うならポジションを大きく張らなければならない。このためレバレッジを最大にしている投資家も多く、大きな相場の変動に耐えられなくなる。
これらの高金利通貨をリスクを抑えて取引するには、厳重な資金管理の下で慎重に進める必要がある。羊飼いの個人的な考えでは、FXは為替差益を狙っていくのが合理的であり、スワップ狙いの取引はリスクに見合ったリターンが期待しにくいと考えている。
※マネーポスト2016年秋号