ライフ

般若理趣経「性の快楽も清浄、是れが菩薩の立場」の解釈

医師・僧侶の田中雅博氏

 2014年10月に最も進んだステージのすい臓がんが発見され、余命数か月であることを自覚している医師・僧侶の田中雅博氏による『週刊ポスト』での連載「いのちの苦しみが消える古典のことば」から、「般若理趣経」の「性の快楽も清浄、是れが菩薩の立場です」という言葉の解釈を紹介する。

 * * *
 前回は菩薩行の密教経典『大日経』の本文の最初にある有名な三句について書きました。今回はヨーガの密教経典『般若理趣経』から、これも有名な言葉「いわゆる妙適清浄の句、是れ菩薩の位なり」を紹介します。この言葉も、経典本文の最初にあります。

 ここで、「いわゆる妙適」というのは、「蘇ラ(ラは口編に羅)多」と音写された梵語(サンスクリット語)で、男女の性交を意味しています。そして「句」と「位」は同じ梵語「鉢曇」の漢訳で、基本的には「一歩」を意味し、立場・句義・地位・境地など広い意味があります。

 この文の全体は「性の快楽は清浄という立場、是れ菩薩の境地なり」という意味になります。経は続けて性の快楽を16に分けて同様に清浄であると説き、次に理由が説かれます。

 その理由を説いた元の梵文には「それは何故か。すべての物事(一切諸法)の自性は空性だから般若波羅蜜多の清浄を持つのです」と書いてあります。ここで用いた「自性」、「空性」および「般若波羅蜜多」という言葉を、前に書いた般若心経を使って説明します。

「自性」は、「五蘊皆空」という言葉の梵文に含まれており、「つくられたものではないもの」を意味します。現代語で言えば「実体(サブスタンス)」に近い言葉です。「空性」は「色即是空」で「空」と略されている言葉で、「自己執着が空っぽの存在」という意味です。「般若波羅蜜多」は「知恵の完成」という意味で、「筏の譬喩」を使って説かれる「完全に自己執着を捨てた状態」です。

 ヨーガの知恵が完成し、完全に自己執着を捨てた存在こそが清浄であり、それが一切の物事の実体なのです。従って一切の物事の本来の姿は清浄であり、性の快楽も清浄なのです。

関連キーワード

関連記事

トピックス

不倫が報じられた錦織圭、妻の元モデル・観月あこ(時事通信フォト/Instagramより)
《結婚写真を残しながら》錦織圭の不倫報道、猛反対された元モデル妻「観月あこ」との“苦難の6年交際”
NEWSポストセブン
国民民主党から参院選比例代表に立候補することに関して記者会見する山尾志桜里元衆院議員。自身の疑惑などについても釈明した(時事通信フォト)
《国民民主党の支持率急落》山尾志桜里氏の公認取り消し騒動で露呈した玉木雄一郎代表の「キョロ充」ぷり 公認候補には「汚物まみれの4人衆」との酷評も出る
NEWSポストセブン
永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《永野芽郁に新展開》二人三脚の“イケメンマネージャー”が不倫疑惑騒動のなかで退所していた…ショックの永野は「海外でリフレッシュ」も“犯人探し”に着手
NEWSポストセブン
“親友”との断絶が報じられた浅田真央(2019年)
《村上佳菜子と“断絶”報道》「親友といえど“損切り”した」と関係者…浅田真央がアイスショー『BEYOND』にかけた“熱い思い”と“過酷な舞台裏”
NEWSポストセブン
「松井監督」が意外なほど早く実現する可能性が浮上
【長嶋茂雄さんとの約束が果たされる日】「巨人・松井秀喜監督」早期実現の可能性 渡邉恒雄氏逝去、背番号55が空席…整いつつある状況
週刊ポスト
発見場所となったのはJR大宮駅から2.5キロほど離れた場所に位置するマンション
「短髪の歌舞伎役者みたいな爽やかなイケメンで、優しくて…」知人が証言した頭蓋骨殺人・齋藤純容疑者の“意外な素顔”と一家を襲った“悲劇”《さいたま市》
NEWSポストセブン
6月15日のオリックス対巨人戦で始球式に登板した福森さん(撮影/加藤慶)
「病状は9回2アウトで後がないけど、最後に勝てばいい…」希少がんと戦う甲子園スターを絶望の底から救った「大阪桐蔭からの学び」《オリックス・森がお立ち台で涙》
NEWSポストセブン
2人の間にはあるトラブルが起きていた
《浅田真央と村上佳菜子が断絶状態か》「ここまで色んな事があった」「人の悪口なんて絶対言わない」恒例の“誕生日ツーショット”が消えた日…インスタに残された意味深投稿
NEWSポストセブン
フランスが誇る国民的俳優だったジェラール・ドパルデュー被告(EPA=時事)
「おい、俺の大きな日傘に触ってみろ」仏・国民的俳優ジェラール・ドパルデュー被告の“卑猥な言葉、痴漢、強姦…”を女性20人以上が告発《裁判で禁錮1年6か月の判決》
NEWSポストセブン
ホームランを放った後に、“デコルテポーズ”をキメる大谷(写真/AFLO)
《ベンチでおもむろにパシャパシャ》大谷翔平が試合中に使う美容液は1本1万7000円 パフォーマンス向上のために始めた肌ケア…今ではきめ細かい美肌が代名詞に
女性セブン
ブラジルへの公式訪問を終えた佳子さま(時事通信フォト)
《ブラジルでは“暗黙の了解”が通じず…》佳子さまの“ブルーの個性派バッグ3690レアル”をご使用、現地ブランドがSNSで嬉々として連続発信
NEWSポストセブン
告発文に掲載されていたBさんの写真。はだけた胸元には社員証がはっきりと写っていた
「深夜に観光名所で露出…」地方メディアを揺るがす「幹部のわいせつ告発文」騒動、当事者はすでに退職 直撃に明かした“事情”
NEWSポストセブン