参院のドンと呼ばれた村上正邦氏(84)は現役時代、元号法制化を進めるなど、皇室と政治の問題や調整に深く関わってきた。だからこそ、天皇の生前退位に対する安倍政権の対応に憤る。
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政府は識者から幅広い意見を聴取し、天皇陛下の生前退位を特措法制定によって可能にすることを検討するなんぞと言っておるようだ。安倍さんはことが大きくなれば念願の憲法改正が困難になると危惧し、特措法の制定で早期決着を図ろうと考えたのかもしれん。
しかし、それは大間違いです。私は陛下の生前退位には反対の立場だが、仮に譲位を実現するとすれば、皇室典範の改正は必要不可欠。現在の天皇陛下に限って例外的に認めるという特措法の考え方は、皇室の基本的な枠組みを恣意的に変えることにつながる。
そもそも特措法でその場しのぎの対応をするというのは、天皇陛下の御心を蔑ろにするものです。まったくもって安易に考えすぎている。
天皇陛下がお言葉を表明されたのは8月8日。宮内庁から優先的に検討せよと突っつかれてやっと9月23日に有識者会議のメンバーが発表されたが、安倍さんはその間、リオ五輪でなんだかワケのわからん格好をしておるじゃないか。
こんなにも天皇陛下を軽んじてどうする。安倍さんは天皇陛下のお言葉ひと言ひと言を、真剣に重く受け止め、どのように答えればいいのか考えなくてはならない。
それこそ山に籠もって全身全霊で思慮する、というぐらいの謙虚な気持ちで挑まねばならない。
●むらかみ・まさくに/1932年生まれ。1980年参議院初当選。労働大臣、自民党参議院議員会長を歴任。
※週刊ポスト2016年10月14・21日号