医療格差が叫ばれる昨今。だが、身近にいてほしいと思えるお医者さんもいるものだ。そんな医師の姿をお届けする。ここでは、その仕事ぶり、情熱、人柄に感銘を受けたさだまさし(64才)がテレビ番組で対談相手に指名した岐阜県中津川市民病院の医師・間渕則文さん。“ミスター・ドクターカー”と呼ばれるように、自分の生活は二の次で、乗用車型ドクターカーを駆って奥美濃の山中を自在に走り回り、救命率を驚異的に上げた彼の手腕、行動力と熱い医者魂に迫る。
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その日、夜9時過ぎ、119番通報を経由して緊急出動要請の無線が入った。ベッドに入ったばかりの“ミスター・ドクターカー”は、ガバッと起き上がり、素早くユニフォームを整えた。そして、
「トイレ行ってきます!」
この言葉は、自分自身への出動宣言だ。トイレをすますと安全靴をはき、ドクターカーに飛び乗る。実に慌ただしいが、準備万端整えヘルメットも装着し、抜かりなく走り出す。この間、わずか4分。漆黒の闇の中に赤色回転灯の光とサイレンの音が響く。
「昼間なら病院にいるので、要請から2分で出られるんですが、夜間は待機宿舎からでしょう。どうしても4分はかかるなあ」
そう言って、間渕さんは口元を引き締める。長野県との県境、岐阜県中津川市の夜間、ドクターカーの出動風景は、例外なく緊迫感に包まれている。
「まずおしっこなんですよ。いったん出動したら、トイレはいつ行かれるかわからないですからね」
ドクターカーに限らず、消防や救急の緊急車両の先は何が待ち受けているかわからない。他のスタッフと同乗する場合は、運転は看護師に任せて、自分では傷病者の容体を聞き、応急処置などの段取りをつける。
夜間の場合は、たった1人での出動だから、運転も無線でのやりとりも、「緊急車両通ります。中央空けてください」というアナウンスもこなす。現場に到着すれば、「医者が来ました!」と自ら名乗って、けが人や病人のところへ一目散。
交通事故なら道路の通行遮断の必要や「火災の発生なし、ガソリン漏れなし」というような報告もし、車の中で動けないでいるけが人に向かって、「こんばんは、わかる? 動かんでいいよ」などと声をかけ、治療を開始する。