「北方領土返還解散」への号砲が鳴った。「選挙の風はもう吹き始めている。準備に取りかからない人がいれば論外だ」──二階俊博・自民党幹事長はそう檄を飛ばし、10月19日から当選1~2回の若手議員約120人を対象に「選挙勉強会」を開くことを決めた。後援会の強化から有権者との握手の仕方まで一から鍛え直すためだ。同党の2回生議員は気を引き締める。
「派閥の幹部から、『過去2回の選挙は実力ではなく風で当選した。次こそが正念場だと思え』ときつく言われて後援会回りを始めた」
本誌は安倍晋三首相が12月の日露首脳会談で北方領土の2島先行返還で合意し、その外交成果を掲げて1月解散に踏み切る準備を進めていることを報じた(前々号)。
内政でも、選挙をにらんだ露骨な政策転換を行なった。「女性活躍社会」を掲げる安倍政権は年末の税制改正で配偶者控除(年収103万円まで非課税)を廃止する方針を打ち出した。ところが、全国1000万人ともいわれる“パート主婦”の反発が強いとわかると、今度は配偶者控除を逆に150万円程度に引き上げる方向に転じた。1000万票をガッチリつかもうとするわかりやすい作戦だ。
着々と選挙態勢を整える官邸と自民党を慌てさせたのが石原伸晃・経済再生相から飛び出した増税発言だ。石原氏は都内での講演(10月5日)で「消費税は10%では社会保障を賄いきれない。次は12%、13%、15%という形で上げることを国民に問いかけて選挙をしていかなければならない」と発言し、すわ、「増税選挙か」と物議を醸した。
「官邸が配偶者控除の拡大に舵を切っているのに、増税を口にするなんて空気が読めないにもほどがある。幹事長ら執行部は呆れているし、総理は石原大臣が消費税15%が解散の大義名分になるような言い方をしたことに気分を害している」(官邸筋)
官邸は増税批判が広がる前に急いで火消しを図り、石原氏は2日後の会見で「安倍内閣で行なわれる次期衆院選では、消費税率の10%以上への引き上げは争点にならない」と発言修正を迫られた。
選挙が近くなれば不人気政策には箝口令が敷かれる。1月解散が既定路線になっていることがはっきりわかる“失言劇”だった。
野党側は完全に後手に回っている。民進党の蓮舫・代表は「与党から衆院解散をという非常に不見識な発言も出ている。いつ何があってもおかしくない。態勢は整えていきたい」と来年1月に予定していた党大会を自民党同様に3月に延期し、「選挙日程」を空けたものの、出遅れは否めない。
※週刊ポスト2016年10月28日号