世界700万人。日本に約50万人。在外韓国人(韓僑)の概数だ。韓国大統領選において日本国内に住む数十万という票田は勝敗を揺るがしかねない。2009年、在日韓国人を含む国外の韓国人に本国国政選挙の投票権が認められた。しかし、有効活用されることなく、韓国と在日社会の“分断”の象徴となっている。
このように投票経験のない若者にいかに、動機付けを促すか。そこには韓国側の戦略も問われるが、前出の研究者は、在外投票の広報活動に国家が本腰を入れていない、と指摘する。
その理由として、「朴槿恵大統領の政権運営に在日票が援護射撃になると思えない。あえて広報活動を控えているのではないか」との勘ぐりまで生まれている。
朴槿恵大統領を輩出した政権与党のセヌリ党は、日本でいえば自民党に相当する保守政党である。一方で、日本で在外投票の実現に奔走したのは、金大中元大統領への共鳴者が多い。つまりはリベラルで多文化主義を求める人々だ。韓国の国政選挙は、常に保守派とリベラル派が拮抗する。団体票は脅威となる。
「在日票を警戒した韓国政府の意を汲む民団が、バスをチャーターして投票者を運ぶ際、車中で政権側への投票を指南していたといった噂まで生まれている」(在日問題に詳しい韓国在住の日本人研究者)
こうした情勢を受けて、韓国では、在外投票を「税金の無駄遣い」と非難する声も出始めた。韓国社会との架け橋になるはずの在外投票が、かえって「溝」を際立たせてしまったのは、皮肉である。今後、在日韓国人は、在外投票をどう活用すべきか。