終息の気配を見せない山口組分裂抗争の最中、存在感を増している『週刊アサヒ芸能』(徳間書店刊)、『週刊大衆』(双葉社刊)、『週刊実話』(日本ジャーナル出版刊)の実話系週刊3誌。分裂から半年間ほどは3誌とも売上部数が2割ほど伸び、好調だという。そんな実話誌のヤクザ記事には暗黙のルールがある。実話誌ライターが言う。
「表紙に六代目山口組と神戸山口組を併記する場合、必ず六代目から書くのがルールのようです。行事の記事には、出席者の名前を全員書くこと。見落とすと“俺もおったのに何で無視するのか!”とクレームを受けかねないからです。
行事の取材では、組長らに声をかけない。邪魔にならないよう写真をサッと撮って隅に引っ込むのが作法。ところがテレビや新聞の記者は、組長の動線を潰しながら“一言ください!”とか言っちゃう。こちらは“組長に怒られるぞ!”とヒヤヒヤしています」
実話誌の記者たちはディープな情報を知る立場にあるが、たとえ知ったとしても全て書けるわけではない。
「スクープを書いても、それで睨まれては意味がない。我々の任務は長期にわたってヤクザの最新情報を更新していくこと。今回の分裂では、これまでの関係性を重視して六代目寄りではあるが、神戸側の機嫌も損ねないような微妙なバランスで記事を書いていくことが重要なのです」(同前)
だからこそ、裏取りは慎重になるという。週刊実話元編集長の下村勝二氏が話す。
「ヤクザ報道に関して言えば、新聞やテレビは基本的に警察当局からの情報で報じるから、報道内容にミスが出ることが多い。特に多いのが肩書きです。頻繁に変わりますから。その点私たちは、できるだけ関係者に直接取材しますからミスが少なくて済む」
下村氏によれば、3誌が現在のような暴力団の記事を掲載し始めたのは、山一抗争以降で、実話は70万部を超えた号もあったという。
2000年代に入り、各地方自治体による暴力団排除条例の制定とともに、その勢いは失われたが、今回の分裂騒動で「もう一度息を吹き返したい」というのが実話誌関係者の本音だ。
取材の気苦労は今も昔も変わらないが、それでも彼らがヤクザ取材を続ける理由を下村氏が代弁する。
「社命で、ヤクザ取材を30年以上やりましたが、正直つらかった。自宅に脅迫電話がかかってきたりと、大変な目にも遭った。でも、尊敬できるヤクザもいたし、彼らから学ぶことも多かった。暴力だけでなく、権力闘争やカネ、プライドなど、人間の本質に触れる得難い体験もできた。今となっては担当して良かったと思っています」
今日もヤクザと実話誌の“攻防”は続いている。
※週刊ポスト2016年10月28日号