【著者に訊け】恩田陸氏/『蜜蜂と遠雷』/幻冬舎/1800円+税
〈ミュージック。その語源は、神々の技だという〉。
幼い頃から練習を積んでなお、一握りの人間だけが神秘に触れ、プロになれる音楽の世界。そんな悲喜こもごものドラマが交錯する〈芳ヶ江国際ピアノコンクール〉が、恩田陸著『蜜蜂と遠雷』の舞台だ。執筆7年、取材も含めれば12年がかりという文字通りの大作では、国籍も来歴もそれぞれ違う4人の出場者を軸に、一次予選から二次、三次を経てオーケストラと共演できる本選まで、2週間に亘る選考過程を具に追う。
火種は没後もなお敬愛を集める世界的音楽家〈ユウジ・フォン=ホフマン〉の推薦状にあった。彼は養蜂家の父親と流浪生活を送り、ピアノすら持っていない無名の16歳〈風間塵〉を愛弟子と呼び、こう書き遺した。
〈彼は『ギフト』である。恐らくは、天から我々への〉〈甘い恩寵などではない。彼は劇薬なのだ。中には彼を嫌悪し、憎悪し、拒絶する者もいるだろう。しかし、それもまた彼の真実であり、彼を『体験』する者の中にある真実なのだ〉……。
まるで小説と読者の関係をも挑発するような挑戦状と、愛すべき天才たちが各々の音楽を発見していく過程に、著者が託した思いとは?
「入賞者が海外のコンクールでも好成績を残しているゲンのいい大会だと聞いて、浜松国際ピアノコンクールを見に行ったのが第4回の時。以来3年ごとの開催に4回、結局12年も通いつめてしまいました(苦笑)。
そもそも数値化できない音楽に点数をつける矛盾を全員が承知していることが興味深いし、明と暗がハッキリ分かれる点もドラマとして面白い。そうした敗者が死屍累々といる上に今の音楽があること自体、凄まじい話ですし、音楽の本質についても一度、真正面から書いてみたかった」