92歳の作家・佐藤愛子氏のエッセイ『九十歳。何がめでたい』が20万部を超えるベストセラーになっている。
同書は、佐藤氏が90歳、卒寿を迎えた際、「まあ!おめでとうございます」と祝福され、表向きは「ありがとうございます」と返事しながらも内心は〈卒寿? ナニがめでてえ!〉(以下〈 〉は同書より引用)。と思っていたエピソードを皮切りに、世の森羅万象を女性目線でぶったぎった痛快なエッセイ集である。
世の男性はこの本をどう読んだのか。
脚本家のジェームス三木氏(81)は、「90代の佐藤先生に比べれば若輩の僕がいうのはおこがましいですが……」と前置きしつつ、同書が描き出す「高齢者になってわかる、体の衰えへの哀しみ」に共感したと話す。
「本の中に〈まるで忍びの兇賊か、はたまた幽霊かという趣でスーと横に現れる。『危いじゃないですか』といおうとしたら、その前に『危いじゃないのっ!』と怒鳴られる〉という、耳が遠くて自転車が近寄ることに気づけないというエピソードがありましたよね。僕も耳が遠いから、『そうなんだよ。腹立たしいんだよ』と相槌をうちながら読みました。
僕は目も悪くなっているから、うがい薬と間違えてヘアトニックでうがいをしていることに半年も気づかなかった。もっと表示を大きくするなど、年寄りへの配慮があってもいいと思う」
一方で“行きすぎた配慮もある”と三木氏はボヤく。例えば、子供の火遊びを防ぐために、近頃の100円ライターが強く押さないと着火しないように“改善”されていることだ。
「高齢者には硬くて大変。僕は死ぬ時に“最期の一服”をできないと困るので日々親指を鍛えている(苦笑)。
今の世の中は“安心と安全”が最優先ですが、それだけでは生きる意味がない。安心、安全だったら、誰もエベレストなんか登らないでしょ? “危険と冒険”があってこその人生。子供だって、ライターで火傷して、身をもって学べばいい」
TBSラジオ『全国こども電話相談室』で33年間回答者を務めた、僧侶で教育者の無着成恭氏(89)は「この本から読みとれる佐藤さんの考えは仏教の六道の教えに通じる」という。
「仏教では『六道輪廻』といって、天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道の6つの世界があると説いています。人のためを考えないで自分が儲けることばかり考えていると『餓鬼道』に堕ちた餓鬼となり、それが過ぎると『地獄道』に堕ちる。佐藤さんが配慮のない人たちにもの申しているのは、『このままだと人は餓鬼になり、また戦争をして地獄に堕ちるぞ』ということだと思います」
※週刊ポスト2016年10月28日号