92歳の作家・佐藤愛子氏が上梓したエッセイ『九十歳。何がめでたい』が20万部を超えるベストセラーになっている。この本は、佐藤氏が90歳、卒寿を迎えた際、「まあ!おめでとうございます」と祝福され、表向きは「ありがとうございます」と返事しながらも内心は〈卒寿? ナニがめでてえ!〉(以下〈 〉は同書より引用)。と思っていたエピソードを皮切りに、世の森羅万象を女性目線でぶったぎる痛快なエッセイ集である。
〈年寄りが敬意を払われなくなったのは、この急速な「文明の進歩」のためだ〉
こう佐藤氏が嘆くように、高齢者が生きづらいのは、身体機能の衰えのみならず、世の中の“進歩”についていけないことも大きな原因だ。佐藤氏は白髪まじりのタクシー運転手と意気投合し、話を弾ませる。
〈スマホを一台持ってると電話にカメラに計算機とか時計の役目までこなすんだって?〉
〈そんなものが行き渡ると、人間はみなバカになるわ。調べたり考えたり記憶したり、努力をしなくてもすぐ答が出てくるんだもの〉
〈日本人総アホの時代がくるね!〉
この言葉にTBSラジオ『全国こども電話相談室』で33年間回答者を務めた、僧侶で教育者の無着成恭氏(89)は膝を打つ。
「スマホは便利ですが、『人間』から『間』を取ってしまった。人は、人と人との間で関係を持って初めて『人間』なんです。『犬間』や『豚間』という言葉がないように、『間』がなければ、畜生と一緒。文明の利器を駆使する一方で、今の人たちは思いやりといった人間らしさを失ってしまったと思います」