かつて「日本人には少ない」というのが定説だった前立腺がんだが、いまや、男性の罹るがんでトップに躍り出ようとしている。一方で、治療法の進化によって前立腺がんは「治るがん」になってきているという──その最新状況を1000人以上の治療実績がある名医に聞いた。
前立腺がんの罹患者数は、2000年から2004年まで平均で年間約3万人だった。それが、2015年に国立がん研究センターがん対策情報センターの発表した罹患率の短期予想(発表までに4~5年かかる統計データについて数学的な補正を加えて出した予測値)では、すでに約10万人に達したと見込まれている。10年前の3倍超の数字で、日本人男性の罹るがんで第1位になると見られているのだ。
なぜ前立腺がんが増えているのか。10月に、新著『前立腺がんは怖くない』(小学館新書)を上梓し、前立腺がん治療の世界的権威として知られる東京慈恵会医科大学の頴川晋(えがわ・しん)・泌尿器科主任教授が解説する。
「アメリカでは昔から男性における罹患率で1位だったにもかかわらず、1990年頃まで日本ではあまり多くないと信じられていたのが、前立腺がんでした。近年になって増加している理由は、食生活の欧米化などさまざま考えられますが、一番大きいのは、いままで見つかっていなかった前立腺がんが、『PSA検査(腫瘍マーカー)』という検査法で、比較的容易に発見できるようになったことです。現在ではPSA検査は、ほとんどの人間ドックに組み込まれているはずです」
このように「治るがん」であることは分かったが、前立腺治療においてはどうしても気になる「勃起」の維持に関して、研究が積み重ねられている。
「前立腺は、精液の一部を製造している器官で、全摘すれば精液の量が基本的に0になります。そのため勃起能が残っても『オーガズムが弱くなった』と訴える人が出てくる。また、前立腺の周りは性機能に関する神経や尿・腸機能の神経が取り巻いていて、手術でそうした神経を取り除いてしまえば、勃起力自体の低下を招くことがある。
がんの治療を優先するあまり、かつては左右両方の神経を切除していたのが、いまは変わってきている。右に病巣があるのなら左はそのまま残し、右はそれでも50%までは残すといったやり方で、なるべく機能を残すようにします。治療前と100%同じとはいかなくとも、それに近づける手術が行なわれるようになってきました」(頴川教授)