これまで1万世帯を超える家計を診断してきた「家計の見直し相談センター」の藤川太氏によれば、“マネー失敗者”たちの「しくじり」には共通のパターンがあるという。その1つが、「見栄を張って失敗」というパターン。最初はちょっとした「見栄」だったのが際限なく膨らみ、結果的に大きな失敗につながるケースは少なくない。そんな失敗に陥った2人の例を、藤川氏が紹介する。
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【子どもを私立に通わせたいのに車を手放せないCさん(男性・40代=当時)】
数年前、私立中学を目指す小学5年生のお子さんがいるCさんが、教育費に関する相談にやって来ました。さほど収入の高くない会社員のCさんは、貯蓄を取り崩しながら学習塾代を捻出してきましたが、子どもが予想以上に頑張り、志望校に合格する可能性が高まっていたそうです。
Cさんの家計を試算してみたところ、合格したら家計が破綻するのは明らかでした。
そこで、「【1】現在は専業主婦の奥さんに働いてもらう、【2】車を手放す」という2つの対策をアドバイスしました。その時点では「子どもを私立に通わせたいという親のささやかな見栄」くらいに思い、それが実現できれば、なんとかやりくりできるはずでした。
ところが、Cさんは子どもが晴れて志望校に合格したというのに、車を一向に手放そうとはしませんでした。よくよく話を聞いてみると、「車を売ったらガレージが空いてしまい、『Cさんの家計は苦しいのかな』と近所でいわれるんじゃないかと不安なんです」といいます。はっきりいえば、どうでもいいような「見栄」です。
結局、合格から1年後に車を売却しましたが、その間に車そのものに加えて保険料やガソリン代と維持コストまで考えれば、おそらく50万円ほどは損した計算になります。
相談料まで払って私たちのところまでアドバイスを受けに来たのに、それも実行しない。どうせ車を手放すならもっと早く手放せばよかったのに、つまらぬ見栄がそうさせたかと思うと、残念でなりません。
【身の丈を超えて高級住宅街に暮らすDさん(女性・30代=当時)】
夫婦共働きで、年収は2人合わせて1000万円近いDさんは、東京都心での暮らしに並々ならぬ情熱をお持ちのようで「どうしても山手線の内側に住みたい」と相談に来ました。「もう少し視野を広げてみては」とアドバイスしても、それだけは譲れない様子。結局、都心の高級住宅街の物件を購入し、住宅ローンの返済は月20万円に上るほどでした。加えて都心は物価が高く、日々の生活費も家計を圧迫していきます。
ただでさえ家計は火の車であるにもかかわらず、Dさんは「ゆくゆくは仕事を辞めて子育てに専念したい」と言い出す始末。やがて子どもができて、Dさんは「仕事を辞めます」と宣言しましたが、住宅ローンに生活費、さらには教育費を考えると、家計破綻の危機は避けようがありませんでした。
その後、私のもとに相談に来ることはありませんでしたが、風の噂では地方に引っ越したようです。やはり身の丈を超えた「見栄」は張るべきではない、と改めて痛感しました。
【まとめ】
・年功序列が崩壊し、そうそう収入が増えない時代に突入したため、見栄で失敗するケースはこの10数年で一気に増えた。
・かつては収入同様、資産価値の上昇も右肩上がりで見込めたので、無理してローンを組んででも住宅を購入するのが当たり前だったが、現在は通用しない。
・せっかく他人の意見を聞きに来ても、アドバイスに従って動かなければ元も子もない。
※マネーポスト2016年秋号