上質で伝統的な「皇室御用達」には理由があった。その品々と天皇家にまつわる、一級品の逸話を聞いた。
両陛下がお使いになっているビニール傘を製造しているのは、国内唯一のビニール傘メーカー・ホワイトローズ。6年前に突然、宮内庁からご用命を受けたという。同社社長の須藤宰さんはこう語る。
「神奈川県で行われた植樹祭で、たまたま県が用意していた当社の製品を両陛下がお使いになられたと、知人に聞いて知りました。その10日ほど後に、皇室に長年傘を納品している前原光榮商店さんから“美智子さまがビニール傘に関心をお持ちなので協力してほしい”と連絡があったんです」
透明の傘なら、360度、ご自身のお姿が集まった人たちによく見えるからという美智子さまのお心遣いだった。そのお気持ちに応えるべく、須藤さんは試行錯誤を重ねた。
「美智子さまは普段、お顔が傘で隠れないように、傘の柄の部分を肩にのせてお使いになるということなので、正面から強風が吹いても風をまともに受けないよう『逆支弁』という、風が吹き抜ける小さな穴をあける技術を開発しました。
東日本大震災の被災地ご訪問の際、両陛下が積極的にお使いくださっているのを報道でお見かけしました。ビニール傘は傘業界では長く使い捨てのキワモノ扱いされてきましたが、両陛下にお使いいただいたことでようやく世間からも認められました。本当に嬉しく思っています」(須藤さん)
江戸時代から始まり、皇室のご用命を受け続けている吉野本葛の老舗・黒川本家社長の黒川重之さんは、昭和天皇とのエピソードを振り返る。
「晩年お体を崩されてお食事が取れない状態になられた時、葛湯でしたら流動食ですから召し上がれると、少しずつ口にされていたと聞いております。『葛湯はまだか』と侍従長様におねだりなさることもあったそうです」(黒川さん)
1989年に昭和天皇が崩御された際には、殯宮(もがりのみや)拝礼の儀に招待され、最後のお別れをしたという。
「祭壇が置かれた部屋に5、6人ずつ入りまして、祭壇に向かってお辞儀をいたしました。皇族のかたもいらして、高円宮さまのお姿があったことを覚えております。大変に厳粛な場で昭和天皇とお別れできたことを光栄に感じております」(黒川さん)
黒川本家では、江戸時代初期からの製法をそのまま受け継ぎ、職人の手作業で吉野本葛を作っている。昭和天皇が召し上がられたものと同じ葛を、私たちは今でも味わうことができる。
上質な日本の伝統品が守られてきた背景には、物を大切にされる皇室のお心と、皇室御用達の名誉に応えようとする職人たちの、たゆまぬ努力があることを忘れてはならない。
※女性セブン2016年11月3日号