8月にビデオメッセージで生前退位の意向を明らかにして以来、天皇の周辺は騒がしくなった。
そんな中、10月6日に宮内庁が新たなニュースとして発表したのは、陛下が長期にわたりタヌキの食性を調べ、その論文が「国立科学博物館研究報告」(8月22日発行)に掲載されたという内容だ。
論文名は「皇居におけるタヌキの果実採食の長期変動」。全て英語で書かれ、著者の筆頭は「Akihito」、所属は「The Imperial Residence(御所)」とある。天皇が国立科学博物館の研究員3人と共同研究した結果をまとめたものだ。
生前退位を巡る法整備議論に日本政府が揺れる中、意外なニュースに世間は驚いた。もっと驚いたのはタヌキの専門家たちだった。『タヌキ学入門』(誠文堂新光社刊)の著者で麻布大学いのちの博物館上席学芸員の高槻成紀氏が語る。
「陛下は2008年にも皇居に生息するタヌキの食性に関する論文を発表されましたが、その時は1年だけの調査で、年次変動については調べていませんでした。
例えばツキノワグマではその年の果物の豊作、凶作に応じて食性が大きな年次変動をすることが知られています。そういう背景から、陛下はタヌキの食性の長期的な分析を試みられた。1か所の『溜糞場』で5年間も調査した研究論文は、国内外で例がありません」
天皇の研究に対する執念を感じるのはその調査方法だ。タヌキは特定の場所に排便(溜め糞)する習性があり、溜糞場に残された糞を調べることでタヌキの食性を知ることができるのだが、その過程について論文はこう記す(以下、和訳は編集部)。
〈2009年1月~2013年12月までの間、私たちはタヌキの最も新鮮な糞を毎週日曜日午後2時に採取した〉
〈糞は0.5ミリの網で洗って、こして、糞に含まれる植物の種子を確認して数を記録した〉
サラリと書いてあるが、高槻氏は唸る。
「タヌキの糞の臭いは強烈です。鼻の奥までツンと来る刺激臭で、それを拾うのも水洗いするのも、忍耐力と根気のいることです。これはやった者でなければわかりません。陛下は、お忙しい公務の合間に5年間も研究を継続されたのですから、本当に頭が下がります。とても私にはできません」
宮内庁によれば、天皇自らが採取し研究をしていたという。
※週刊ポスト2016年11月4日号