国民が知らない間に、かつてないほどの年金制度の大転換が行なわれようとしている。年金生活者が今現在受け取っている受給額を減らす「年金減額」法案だ。
過去、保険料の値上げ、年金受給開始年齢の引き上げなどの年金改革のたびに国会は紛糾したが、それらはいずれもまだ年金をもらっていない現役サラリーマン世代の将来の給付水準を減らす内容だった。
悪名高いマクロ経済スライド(物価が上がると年金受給額も上がるが、物価上昇率より低い水準で増額する仕組み)という制度も、将来もらえる年金額を世代が若くなるほどより大きく減らす仕組みであり、現在の年金生活者の年金が直接減らされることはなかった。
ところが、国会で審議中の年金法改正案には、すでに年金を受け取っている約4000万人の受給額を強制的に減額する巧妙な仕組みが盛り込まれている。「年金博士」として知られる社会保険労務士の北村庄吾氏が語る。
「年金生活者の受給額を引き下げると、生存権が脅かされる。だから年金の直接減額はタブーでした。例外は、物価の上下に応じて年金額を調整する物価スライド制度ですが、これは受給額は変わっても同じものが買えるので高齢者の生活が苦しくなることはない。
しかし、今回の改正案では、物価が上がっても下がっても現役サラリーマンの平均賃金が下がれば年金生活者の受給額をマイナス・スライドさせるという制度に変わる。
“賃金減少で現役世代の生活が苦しいから、お爺ちゃんおばあちゃんも我慢してください”という趣旨ですが、現役世代は給料が下がれば残業を頑張ったり、パートを増やすなど収入を増やす努力ができるけれども、年金に頼っている高齢者には無理です。
サッカーの試合途中で一方のゴールを大きくするようなやり方で、政府はいよいよ年金生活者が現在受け取っている年金を召し上げるという禁じ手に踏み込んだ」
※週刊ポスト2016年11月4日号