世界700万人。日本に約50万人。在外韓国人(韓僑)の概数だ。植民地支配や朝鮮戦争、戦後の軍事政権。数多の試練を、彼らは海を渡ることでくぐり抜けてきた。苦難は続く。新たな国では迫害を受け、かといって今さら本国には戻れない。
特に日本では、自らの意思に反して連れて来られた人が少なくない上、二世三世と世代を重ねても、不安定な立場は改善されなかった。ならば、せめて本国と繋がろう。在外投票では、そうした希望を叶えられる……はずだった。
1997年、国内外で在外韓国人の参政権を認めないのは違憲だという声が高まった。1999年に棄却されるが、再提訴。中心になったのは関西在住の韓国籍を持つ在日韓国人たちだ。在日問題をライフワークとしてきた在日三世のジャーナリスト・姜誠(カンソン)氏が語る。
「在日韓国人は、日本に帰化しない限り、参政権を持てない。つまり自らが暮らす社会に参画できない。こうした不満を訴える声が1990年代から高まり、日本で地方参政権を得るための運動が活性化した。一方で『市民権を得るだけでは十分ではない、本国と関わり合うことで初めてアイデンティティが醸成される』といった声が2000年代に入って叫ばれるようになった。これが後に在外投票権獲得という形で結実していきます」
本流の地方参政権問題は政治の壁に阻まれ暗礁に乗り上げるなか、支流だった在外投票権が、海の向こうの祖国、韓国で叶ったのだ。
「背景には、金大中(キムデジュン)政権(1998年~2003年)以降、韓国が新自由主義的な改革を打ち出したことが大きい。韓僑の700万人ネットワークを活用し、彼らの知識と資力を国家に組み入れようとした」
実際に、韓国の公選法が改正されたのは2009年のこと。国政選挙に限って在外投票が認められることになった。2012年の国会議員選挙に始まり、これまで3度の国政選挙で実施されている。
しかし、日本では有権者約40万人(*)のうち7600人~2万5000人しか投票所に足を運んでいない。投票率は大体5%未満。アメリカなど他地域の投票率より低いとされる。なぜか。
(*日本で暮らす韓国人〈特別永住者とともに学生、就労者含む〉約50万人のうち8割が選挙年齢〈19歳〉などを満たすと想定)