8月にビデオメッセージで生前退位の意向を明らかにして以来、天皇の周辺は騒がしくなった。そんな中、10月6日に宮内庁が新たなニュースとして発表したのは、陛下が長期にわたりタヌキの食性を調べ、その論文が「国立科学博物館研究報告」(8月22日発行)に掲載されたという内容だ。
欧米のロイヤルファミリーは、“上流階級の嗜み”として研究者としての一面も持つ。天皇家もそれぞれの研究分野を持つ。
昭和天皇は植物の菌などを研究する生物学者として多くの論文を発表した。今上天皇はハゼの研究者として知られ、新種の発見は8種類に及ぶ。皇太子は交通史を中心とした歴史学、秋篠宮はナマズの生態の研究で論文を執筆している。
天皇は、1996年からは皇居の動植物の調査に乗り出し、そのなかでタヌキに興味を持たれた。論文の〈初めに〉にはこうある。
〈タヌキはイヌ科の肉食種で、北海道と沖縄以外の日本全土に分布し、古くからなじみのある動物として知られている。東京都では1950年代までは都心部でも捕獲例があったが、都市化の進行に伴い、1970年代には東京都の西部にまで分布が後退したとされている。だが、最近、東京周辺での生息報告が劇的に増加している。皇居のタヌキは、1990年代半ばから、皇宮警察職員によって報告されている〉
『タヌキ学入門』(誠文堂新光社刊)の著者で麻布大学いのちの博物館上席学芸員の高槻成紀氏が解説する。
「戦後の復興のなかで、東京近郊の野生動物は住処を失い、1964年の東京五輪の後はそれまで生息していたキツネもいなくなり、タヌキだけが人に寄り添いながら生き延びた野生動物です。その“普通の動物”を対象とされたことに、日本の自然に対する陛下の深い愛が感じられます」