「今夜はこの店ば、行くと?」──博多のタクシー運転手が笑顔をみせたのは、昭和29 年創業「旭軒」だ。鉄板で焼かれた餃子がパチパチと音を立てると、たちまち店内に漂う香ばしい匂い。屋台から60年以上続く老舗に親子4代で通う地元ファンも多いため、「私が店に入る前から食べよる人がいるから、 味ば変えられん」と語る、大将の松尾秀雄さん。
「旭軒」以外にも博多には、餃子の名店が軒を連ねる。餃子はそれだけ博多市民にとって、ラーメンや明太子と並ぶ馴染み深い食文化なのだ。開店前から行列ができる「博多 祇園鉄なべ」も、屋台時代から半世紀を刻んだ博多餃子の代名詞。鉄なべに隙間なくまん丸く並べられた餃子が運ばれると、歓声が沸く。
「こげん餃子がまぁるく並んどると、ケーキみたいでみんな喜ぶんよ」(女将の二田繁子さん)
博多餃子の新顔は、「池田商店」の炊き餃子。歴史は浅いが、土鍋入りの熱々スープ餃子は、水炊きやもつ鍋など鍋文化が根付く博多で、早速ファンを増やしている。博多の餃子には温かい人情の味が詰まっていた 。
撮影■松隈直樹
※週刊ポスト2016年11月4日号