寿命と食物をめぐる最新の研究で従来の“常識”がガラガラと崩れ去ったケースがある。
ラードやバターなどの動物性脂肪と、マーガリンやサラダ油などの植物性脂肪では、後者のほうが健康にいいと思っている人が多いはずだ。
実は最新の研究では、逆の結果が出ている。日本脂質栄養学会の初代会長で名古屋市立大学名誉教授の奥山治美氏はこういう。
「かつてはコレステロールが動脈硬化や心疾患の原因であるとされ、ラードやバターなどの動物性脂肪はコレステロール値を上げるから悪玉、ゴマ油やオリーブ油などの植物油に含まれるリノール酸はコレステロール値を下げるから善玉というのが定説でしたが、最近は植物油が糖尿病や動脈硬化などを引き起こす可能性が指摘されています」
植物油の製造過程で生成されるトランス脂肪酸については、農林水産省がホームページで「日常生活でとりすぎた場合には生活習慣病になる可能性が高くなる」などと注意を促している。
トランス脂肪酸が含まれる食品としては、ポップコーンやクッキー、クラッカー、ドーナツ、パイ、ピザ生地、マーガリン、コーヒークリーム、フライドポテト、ポテトチップスなどが挙げられる。ただし、これについての研究の多くはアメリカのもので、日本人への影響は不明な点も多い。
「逆にトランス脂肪酸の問題がないラードは安全といえます。また50歳以上になると、コレステロール値が低すぎるとがんや脳卒中の死亡率が逆に高くなることがわかってきた。高齢者は植物油よりもラードを摂取した方がいいのです」(前出・奥山氏)
同様に鶏卵も「血中コレステロール値を上げる要因になる」と考えられ、控えたほうがいいといわれてきたが、最近になってそれを覆す研究が発表されている。ハーバード大学で食と健康に関する研究をしていた米国ボストン在住の内科医師・大西睦子氏はこう指摘する。
「ハーバード大学の調査では、鶏卵を1日1個摂取しても心疾患や脳卒中リスクに影響を与えることがほとんどなかったことが確認されています。さらに、東フィンランド大学の研究では、鶏卵の摂取により2型糖尿病のリスクが下がり、血糖値が下がることが分かりました。1週間に鶏卵を約4個食べた男性は、1個食べた男性よりも糖尿病リスクが37%も低くなりました」
※週刊ポスト2016年11月4日号